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 現在、血流は回復し、脳梗塞は解消されましたが、右半身(特に右手)と言語に障害が残っています。

脳の不思議を改めて思い知る

 集中治療室に毎日面会に出かけていますが、私が自分を指さして「この人は誰?」とやると、「お母さん」といいます。昨日の段階で、彼女の語彙は「あのさ」「えーとね」「おかあさん」「わかんない」「きのう」くらいです。

 しかし、その一方で彼女の表情や反応をみると、わたしの話はほぼ完全に理解できているようです。コンピューターにたとえると、CPU(中央演算処理装置)は動いているけど、ハードディスクの辞書機能が壊れていて画面に言葉を表示することができず、デフォルトの「おかあさん」「わかんない」だけを繰り返しているような状態です。脳の不思議を改めて思い知りました。

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 もっと不思議なのは、何を言っているのか全然わからない彼女との会話が、実におもしろいことです。集中治療室で、私ほど笑っている面会者は皆無でしょう。会話というのは、内容でするものではないのですね。まったく驚きました。》

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看護師さんってすごい!

 ICUは、小学校で考えるとクラスふたつ分ぐらいの広さ。患者はたくさんいます。当たり前ですが、みんな元気がなく、ボーッとしていて、面会のときはカーテンを閉めて話します。

 朝は早く起きて、まず歯磨きをします。それが唯一の楽しみです。私は右手が使えないので、歯ブラシは左手で持ちます。

 あとはただ寝ているだけです。両目のピントが合わないので何もできません。お腹も減らないし、トイレにも行きません。ベッドの上には点滴の袋が吊り下げられています。栄養や水分はそこからとっているんでしょう。

 看護師さんたちは全員、忙しく働いています。

 ささやかな楽しみは、検査の時にベッドごとエレベーターで移動すること。なかなかスペクタクルで気に入っていました。

 一度、頭を洗ってもらったこともありました。いつもの病室、いつものベッドで、カーテンを閉めてシャンプーです。看護師さんってすごい! 本当に、たとえようもなく、気持ちよかった。

 私がICUを出て一般病棟に移ったのは12月18日のこと。

 まもなくリハビリが始まりました。

※最新話は発売中の「週刊文春WOMAN 2021年 夏号」にて掲載。

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文藝春秋

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