天皇陛下は、お小さい頃から夏季と冬季のオリンピックを観戦なさることがお好きだった。

 前回、東京オリンピックが開催されたのは、高度経済成長の真っただ中にあった1964(昭和39)年。陛下は満4歳になられた年だった。上皇上皇后両陛下とご一緒にマラソンや馬術競技を会場で観戦されたことを今も大切な思い出のひとつとされている。

天皇陛下は東京オリンピック・パラリンピックの開会式に出席し、名誉総裁として開会宣言された ©JMPA

 還暦を迎えられた昨年2月の会見でも、こう述べられた。

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「これまでの60年を振り返ってみますと、幼少時の記憶として、昭和39年の東京オリンピックや昭和45年の大阪万国博覧会があります。私にとって、東京オリンピックは初めての世界との出会いであり、大阪万博は世界との初めての触れ合いの場であったと感じております」

「天皇」と五輪の「名誉総裁」

 閉会式の際には、父上皇陛下から、各国の選手団が国ごとではなく混ざり合って仲良く行進することを教えられたことを印象深く記憶されているという。そのとき目にされた光景は、世界の平和を切に願う現在の気持ちの元となっているそうだ。

 その後、札幌の冬季大会(1972年)やバルセロナ五輪(1992年)の時は現地に赴かれた。雅子皇后と結婚されてからは、皇太子ご夫妻として長野の冬季大会でスケートやジャンプ競技をご覧になり、日本選手のメダル獲得の場面にも立ち会われている。愛子内親王も幼い頃からテレビ観戦されてきたという。

 しかし、今回の東京五輪は、新型コロナウイルスとの闘いになってしまった。7月23日、緊急事態宣言下で開会式に臨まれたが、そのとき陛下が強く願われていたのは、これまでのように競技を楽しむことではなく、競技場や選手村などで感染拡大が起らないことだった。隔離免除の特例入国や選手村の感染対策などに関しても、開催前から並々ならぬ関心をもたれていたという。

7月3日、第35回国民文化祭・みやざき2020、第20回全国障害者芸術・文化祭みやざき大会開会式に臨席された天皇皇后両陛下 宮内庁提供

「天皇」と五輪の「名誉総裁」という2つのお立場は、国民には想像すらできない重責なのだろう。

「開会式当日に、選手たちに義務付けられていた毎日のPCR検査が、キット不足から行われていないことが発覚しましたが、このことは、開会式に臨む直前の陛下にも伝えられたといいます。陛下は、選手村に感染者が増えていないかとご心配され、キットが不足した理由を関係者にご確認されていました。主役の選手たちがこれまで積み上げてきた力を出し切れるよう最善の環境作りをすることは、私たち開催国の務めなのだということを改めて気づかされた気がします」(政府関係者)