1ページ目から読む
5/5ページ目

ナンパをする理由

 拓哉は、やんばるで生まれ育った。やんばるとは、沖縄県の北部地区のことで、その中心地である名護は、那覇から50キロほど離れたところにある。雇用環境が厳しい地域だ。拓哉は、名護からも離れたところにある集落で生まれ育った。彼は女遊びも浮気もしないと言い、地元で紹介されてつき合った彼女のことが今でも忘れられないと話してくれた。

 地元にいたときにはナンパをしたことがなかった。いつもつるんでいるメンバーの誰かとつき合うか、メンバーに紹介してもらって交際するケースが大半だった。いったん別れた後、再びその彼女とつき合うこともよくあった。誰が誰とつき合っているかは、周囲の誰もが知っていた。つき合う相手がいないときは、そのことをみんなが知っているため、交際相手を積極的に紹介してくれた。だから、ナンパをする必要はなかった。

 拓哉はその地元を後にして、名護に出てきた。地元で培った人間関係は切れてしまった。そのため、女性とのつき合い方や彼女をつくる方法も変えざるをえなくなった。名護や中南部の中心街では、自分から積極的に声をかけていかないと、彼女はできなかった。拓哉の場合、ひとりで名護に出てきたので、当初は同性の友だちもおらず、紹介してもらう見込みもなかっただろう。こうした環境変化に適応するために、彼は名護の同世代の若者とつるむようになって、ナンパをすることで彼女をつくることを教わった。仕事を失ったり、地元の先輩とトラブルになったり、孤独に襲われたりしたとき、拓哉は彼女と一緒に過ごすことで乗り切ってきた。

ADVERTISEMENT

撮影:打越正行

 頼る相手もおらず、ひとりで生活や仕事の場を変えなくてはならないなかで、彼女の存在はとても大きいものだった。彼は「マンコー、2カ月くってない(セックスをしていない)。(実家の庭の)マンゴーは2年食ってない。木があるけど実らない」と冗談を口にした。実家のマンゴーは誰も世話をしておらず、いまも実っていない。彼は家にも帰れず、頼れる交際相手もこのときはいなかった。

 拓哉の生活の風景には、リゾート地の廃墟ビル、実らないマンゴーがあり、ゆいまーるとは程遠い地元の先輩との過酷な関係があった。沖縄らしくない風景であっても、まちがいなく現在の沖縄を形作っていることを、私は彼から教わった。

ヤンキーと地元 (単行本)

打越 正行

筑摩書房

2019年3月23日 発売