全体を薄暗くした会場に、恐る恐る足を踏み入れる。あちらこちらに、明かりが点々としている。近づいてみれば、それら一つひとつがライトに照らされた写真や、エンドレスで上映されている映像だった。暗がりに身を置くと集中力が増すからか、どの作品の前に足を止めてもすぐ没入してしまい、ずいぶん長い時間を過ごすことになる。
なかなか抜け出ることのできぬ、奥深い洞窟のようなこの空間。実際はここ、東京・恵比寿にある東京都写真美術館地下1階の展示室だ。「山城知佳子 リフレーミング」展が開かれているのである。
つらい記憶は本当に継承できるのかどうか
山城知佳子は沖縄で生まれ育ち、現在も同地に在住して写真や映像を用いた作品をつくり続けるアーティスト。沖縄の風土や歴史、現在地を生活者の視点からよくよく見つめることで、詩情と批評性が混ざり合った独自の表現を生み出してきた。
今展は山城の代表作と新作、映像8点に写真21点が集められた。入口近くの空間には比較的初期の作品が並んでおり、《OKINAWA 墓庭クラブ》は沖縄特有の墓地空間で踊り続けているひとりの女性の姿が延々と映されている。なんとも不思議なものを見せつけられるのだが、一心不乱な女性からは何やら相当に切実なものが滲み出ている気も。または彼女が自分の意思ではなく、別のものに身体を揺り動かされているようにも見えてくる。
他者の記憶を理解し受け継げるのか
《あなたの声は私の喉を通った》では、何事かを語る女性の顔が画面にアップで映し出される。語りの内容はずいぶん古い話のよう。先の戦争中の辛い記憶の数々が披露されていくのだ。どうやら彼女の実体験を語っているのではなく、戦争を体験した高齢男性の話を書き起こし語り直しているものとのこと。
語られたことをトレースすれば、他者の記憶を理解し受け継げるのかどうか? ということが、作品を通して問われている。観ているかぎり、戦時体験を語る若い女性の姿から違和感を拭い去ることは、なかなかできないものだと気づく。