文春オンライン
若い女性が語り直す“戦争体験”に覚える“違和感”の正体とは… 山城知佳子の品が伝える沖縄の“リアル”

若い女性が語り直す“戦争体験”に覚える“違和感”の正体とは… 山城知佳子の品が伝える沖縄の“リアル”

アート・ジャーナル

2021/09/04
note

「記憶の継承」と口にするのはたやすいが、本当にそれをするのはかなり困難なことと思い知らされるのだった。

山城知佳子《あなたの声は私の喉を通った》2009年 東京都写真美術館蔵

沖縄の「豊かさ」を体感

 会場を奥へと進むと、3つの映像が横並びのスクリーンに連動して流される作品と出くわした。《土の人》と題されたもので、画面内には土にまみれて横たわる人の姿が見える。そこへ宙空から声を宿した土くれが降ってきて、倒れた人たちを呼び起こそうとする。

 映像のなかにはさまざまな言葉が乱れ飛んでいる。日本語、沖縄方言のウチナーグチ、韓国語の詩が引用されているのだ。記憶や文化を宿したその土地に固有の声がどう受け継がれ得るか、ここでも問いかけがなされているように思える。

ADVERTISEMENT

山城知佳子《土の人》2016年 作家蔵

 回廊を経てまた新たな空間へ進む。そこにはいくつかのスクリーン、モニターとスピーカーが設置されていて、部屋全体でひとつの作品を構成していた。上映されているのは新作の《リフレーミング》だ。

リアルな手触りとともに観る側に届く山城の作品

 舞台は沖縄本島北部の石灰岩で覆われた山地。登場人物は各所で不思議な舞踊めいた動きをする。印象的なイメージが連なっていく映像から、人と自然が放散する強い生命力がひしひし伝わってくる。

 沖縄を舞台にしたと聞くと、政治性をまとったメッセージ色の強いものだろうかと思ってしまうが、山城作品はそうではない。もちろん沖縄の歴史や複雑な立ち位置、人々が胸に抱いてきた心境などを扱ってはいるのだけど、それがストレートな主張や告発として発せられるわけではない。

山城知佳子《リフレーミング》2021年 

 それよりも沖縄という土地とそこに暮らす人の多層性を、丸ごとそのまま表現し尽くそうとの姿勢が強く感じられる。だからこそ山城作品を通して見る沖縄は、たいへんリアルな手触りとともに観る側に届く。そうして彼の地が、あらゆる意味で「なんと豊かな土地であることか」という実感も、改めて胸に迫ってくるのだった。

INFORMATION

山城知佳子《コロスの唄》2010年 東京都写真美術館蔵

「山城知佳子 リフレーミング」
2021年8月17日~10月10日
東京都写真美術館 地下1階展示室

https://www.tokyoartbeat.com/event/2021/3A0A

若い女性が語り直す“戦争体験”に覚える“違和感”の正体とは… 山城知佳子の品が伝える沖縄の“リアル”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー