こんな仕入れは、複数人のスタッフで回転させる中型店、大型店であれば難しいことかもしれない。個々の需要に添うよりも、不特定多数が求める売れ筋に特化しなければ会社は維持はできない。
お客さんとのやりとりを覚えておいて仕入れを起こす作業は、50代で始めた小さな店だからできること。若い時に店を持ったら、手に負えないと投げ出したかもしれない。
買いたい動機は100通り
買う動機は人それぞれ、十人十色だ。お客さんは様々な思いから買い物をされる。
まず、直球タイプ。他では手に入らないイギリスの工房で作られた服が欲しい人。ツイッターやブログを見てこられ、試着しつつ、「似合うかしら」と思案されるが、心の中では買うと決めている模様。
色やデザインなど、心の琴線に触れる何かが、服に宿っていたのだろう。
「こんなのが欲しかったのよ」と言われると、嬉し過ぎてひれ伏したくなる。
仕事や人間関係でムシャクシャしているから、服を買って気持ちを立て直したい人もけっこう来て下さる。こんな方は、お客さんがいない時を見計らって来られる。買い物と同じくお喋りをしたいのだ。
こういうお客さんに、どちらかといえば口下手なTは、話を聞いてくれる、信頼できる人という印象を持たれるようだ。「売る気があるのか」と見える消極的な態度が店ではプラスになる。小商いで最も大切なのは、調子よく喋ることではなく、信頼を得ることだから。
気の置けないTとのよもやま話は、気持ちが晴れ晴れとするらしく、Tの出番の日は買い物ついでに、喋りたいお客さんが次々と訪れる。
よろず屋のルーツ、イギリスの商店(ヴィレッジストア)では、卵や牛乳を買ったお客さんが店主と世間話に興じていた。よろず屋もそんな店を目指していたから、いい傾向だと思う。
娘さんに何かいい服でも買ってあげたいというお母さまも少なくない。
ちなみに母娘さんの二人組は「ママも一緒」の意味から「ままも族」とも呼ばれるそうだ。サロンから買い物まで、気兼ねなくお金を出してくれるお母さん付き。「ままも族」は、アパレルの店員さんにとって顧客ランク上位だという。
大人になっても娘に何かしてあげたい気持ちはよく分かる。店に来る娘さんたちは、「本当にいいの」と遠慮しつつも、お母さんおすすめの服を買ってもらい、仲睦まじく帰っていかれる。