先ごろ発表された秋の褒章では、脚本家・演出家の三谷幸喜が紫綬褒章に選ばれた。舞台やテレビドラマのほか、映画でも活躍する三谷の初監督作品『ラヂオの時間』(東宝・フジテレビ製作)が封切られたのは、いまから20年前のきょう、1997(平成9)年11月8日のことである。当時三谷は36歳だった。

紫綬褒章の受章が決まり行われた記者会見 ©時事通信社

 劇中、鈴木京香演じる主婦がラジオドラマのシナリオコンクールで入選し、その作品が生放送されることになったものの、出演者やスタッフの事情から次々と内容が変えられてしまう。本作はそこでのドタバタを描いたシチュエーション・コメディで、もともとは1993年に、三谷の主宰する劇団東京サンシャインボーイズ(94年活動休止)で上演されたもの。さまざまなしがらみから脚本を直さざるをえなくなる展開は、三谷が脚本を手がけたテレビドラマ『振り返れば奴がいる』での体験が反映されているという(三谷幸喜『仕事、三谷幸喜の』角川文庫)。

 じつはこの映画でも、三谷はプロデューサーから脚本の直しを求められていた。彼としてはかなり計算して書いているので、本来は無駄なシーンやセリフはなく、このときも1時間40分ぐらいの映画にするつもりで書き上げた。これに対しプロデューサーからは、2時間半の脚本だと言われ、さらに初監督のときは色々撮りすぎるから、このままでは3時間になると、3分の1を削るよう指示される。しかし、スクリプターに、舞台版のビデオなどを見た上であらためて計算してもらうと、1行も削る必要はないとの判断が下されたという(『キネマ旬報』1997年11月下旬号)。実際、脚本どおりに撮って編集すると、ほぼ当初の構想どおり1時間43分にまとまった。

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©山田真実/文藝春秋

『ラヂオの時間』の映画化にあたっては、舞台版からいくつか変更された部分もある。たとえば映画には元音効マンの警備員が登場するが、これは三谷が子供のときからファンだった藤村俊二に出てもらうため、新たにつくった役だとか。本作は、藤村ら俳優の好演もあいまって高く評価され、翌年発表の日本アカデミー賞では、番組プロデューサーを演じた西村雅彦(現・まさ彦)が最優秀主演男優賞に、わがままな大物女優に扮した戸田恵子が助演女優賞に選ばれている。ベルリン国際映画祭では外国人からも笑いをとり、三谷の自信となった。これ以後も彼はコンスタントに映画を撮り続け、公開のたびに話題を呼んでいる。