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“1点差の完敗”を観て考えた。今のファイターズに何が足りないのだろうか

文春野球コラム ペナントレース2021

 ZOZOマリンのロッテ3連戦は2敗1分に終わった。ロッテはついに単独首位に立ち、7日からオリックスとの首位攻防戦である。ファイターズは8月末から2カード連続で勝ち越して、今度こそロッテといい勝負するんじゃないか(今季はロッテとソフトバンクにやられっぱなし)と淡い期待を抱き幕張へ乗り込んだが、あっさり返り討ちに遭った恰好だ。

 僕は日曜日の第3戦(15回戦)を見ていてため息が出た。

 ロメロのパワーピッチに抑え込まれた試合だ。ファイターズの先発立野和明は球筋が不安定で、1、2回連続で満塁をつくる等したが、どうにか2失点で切り抜けて4イニングで降板。そこからリリーフの西村天裕、鈴木健矢、村田透が頑張った。「無安打無失点」リレーでつなぎ、終わってみればロッテに許したヒットは立野の被安打4だけ。

立野和明

 一方、ファイターズは倍の8安打だ。四球も1つ。勝機は十分あったと思う。まぁ、今季のファイターズは「肝心なところで失策」「救援失敗」等々、いくつか負けパターンがあるけれど、これはなじんだやつだ。「残塁の山」。このところ好調だったのは野村佑希、淺間大基らに適時打(それも長打!)が出ていたからだ。西武から移籍の木村文紀、佐藤龍世を加えた打線は、他球団と比べて迫力の点で見劣りはするが、十分機能していた。僕は高校野球で「この代はこれまででいちばん弱いんだけど、よくまとまっている」と評されるようなチームを連想していた。

 今季、ロッテとの対戦成績が(15回戦終えて)2勝9敗4分とボロボロなのは打力の差、もっと端的に言えばホームランの差だと思う。ロッテは打ち勝つチームに変貌した。先発が2、3点を取られてもあわてない。逆転する自信がある。そういう芸風の相手と試合するのは実にプレッシャーなのだ。特に15回戦のような接戦の場合、回が進むにつれて重圧が大きくなる。

 もっとも実際のスコアを見るとロッテは2回裏、荻野の内野安打&藤原の犠飛で2得点した後は音無しの構えだった。試合終盤、追いかけたのは佐藤の犠飛で1点返したファイターズのほうだ。1対2。この試合のロッテは打力の差ではなく、投手陣の踏ん張りで逃げ切ったのだ。

プロの技術を思わせた西川の「詰まってショートの頭越え」

 さて、ここからが問題だ、1対2の接戦がドキドキワクワクする面白い試合だったかというと、そうでもなかった。スコアが1点差だから好ゲームかというと、野球はそんなことないんだよなぁ。1点差の完勝があるし、終盤に3点差のつく紙一重の好ゲームがある。ロッテ15回戦の場合、さしずめ「1点差の完敗」だろう。

 何でそう思ったかをこれから縷々(るる)述べる。

 ひとつのシーンを覚えている。スコアの動きと関係なく、この試合で僕が最も印象深かったシーン。6回表だ。2死走者なしで2番西川遥輝。それまでファイターズ打線は、角度をつけてロケットみたいに飛んでくるロメロの剛球にみんな押し込まれていた。西川は左打者だ。左のロメロとバット軌道が合う気がしない。そうしたら西川はストレートに押し込まれ、詰まりながらショートの頭を越すヒットを放った。あぁ、いいヒットだなぁと感じ入った。これしかないというようなヒットだ。西川の技術だ。申し訳ないが、この試合でいちばん、あぁ、野球を見たと思ったのはこの「詰まってショートの頭越え」のヒットだった。

 西川が意図して「詰まってショートの頭越え」を狙ったのかどうかは知らない。もっとクリーンな当たりをイメージしていて、たまたま詰まったのかもしれない。でも、ショートの頭越えはワンチャン狙っていた。詰まったのもバッチリだ。僕ら素人はバッティングというのはカキーンッと真っ芯で捉えた当たりでなくてはダメだくらいに思っているが、プロは違う。詰まりオッケー。バット折れてポテンオッケー。「バッティングは詰まるところから始まる」という考え方。好打者は詰まるのを怖れない。

 プロ野球には職人がいるのだ。これは今、2軍で打撃コーチをしている渡辺浩司氏の現役時代のエピソード。渡辺選手は試合前、フリー打撃のケージの後ろに監督さんに立たれるのが嫌いだった。監督さんは選手をのせる意味もあって、ケージの後ろで「よっしゃ!」「ナイスバッティング!」等と声をかけてくる。渡辺選手はあれがめんどくさいという。何故かといえば彼はテーマを持ってケージに入っていたからだ。例えば打撃投手の素直な球にいっしょうけんめい詰まる練習をしていたからだ。(ホームラン打者ではないから)いい当たりなど必要ない。詰まって野手の頭を越す。一打逆転の場面、詰まって勝負を決める。

 この話を聞いてから僕のフリー打撃の見方は一変した。まぁ、大谷翔平のように飛距離だけでお金払いたくなるフリー打撃もあるけれど、基本的にはプロの打者はみんなテーマを持ってケージに入る。その個々人のテーマは何だろうと想像しながら見物するのだ。これが本当に面白かった。

 西川の「詰まってショートの頭越え」はプロの技術を思わせた。しかも2死から出塁してすぐに盗塁だ。悪送球で3塁まで進んだ。(得点には結びつかなかったが)西川の技術はロッテに重圧をかけた。「2死走者なし」がそこまでのシーンに化けるのだ。

 僕は試合中も意図を想像するようにしている。打ったらバンザイ、打てなかったらしょんぼり。もちろん応援してるからそれが基本ではあるけど、何かそれだけだとつまらない気がしたのだ。10回のうち、3回打つのが一流といわれる3割打者なのだ。つまり、7回は失敗する。その7回も楽しみたい。その7回はどういう失敗をしたのか想像しながら見ることにした。

 点差やイニング、走者、アウトカウント等のシチュエーションがある。チームの戦術があり、打者の意図がある。何を考えて打席に入り、何をやろうとしてできなかったアウトなのか。本当はどんなことがしたかったのか。狙いが外れたのはどんな理由からか。そういうことを何となく想像しながら見る。想像が合ってるか合ってないかはわからない。わからないのだが、打席を見る解像度は確実に上がっていく。平たく言えば野球が面白くなる。7回の凡退を味読するのだ。