「嘘を見抜けない人は情報リテラシーが低い」「自分は大丈夫」……。そう思っていても“フェイクニュース”に騙されてしまうケースは珍しくない。かつて、アメリカを代表する新聞、ワシントン・ポストの一流記者達もねつ造記事を信じ込み、そればかりか、ねつ造記事がピュリッツァー賞に輝いたという騒動もあった。
はたして、世間を震撼させるフェイクニュースはどのように生み出されるのか。毎日新聞、BuzzFeed Japanを経て、現在はノンフィクションライターとして活躍する石戸諭氏の著書『ニュースの未来』(光文社新書)の一部を抜粋し、紹介する。
◆◆◆
なぜフェイクニュースに騙されるのか
簡単にフェイクニュースの定義について考えておきたいと思います。とはいえ、この本はフェイクニュース論ではないので、さしあたりこれだけ押さえておけばいいという程度のものです。朝日新聞のサイトでは2つの定義を参照しています。
第一にオーストラリアのマッコーリー英語辞典による定義です。「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」。
この定義は、インターネット上での拡散という現象とフェイクニュースを作ろうとする動機に重きを置いたものです。
第二は英国のコリンズ英語辞典の定義です。「ニュース報道にみせかけて拡散される虚偽の、しばしばセンセーショナルな情報」。
こちらは、より方法論・スタイルに注目した定義を試みています。このように、フェイクニュースは辞典編集者によっても定義がかなり揺れている言葉ですが、個人的には、両方の定義の中間を取るとそれなりにバランスのとれた定義になるのではないかと思います。
ディテールを書き込むというニュースの方法論
ニュースの方法論を使った虚偽のニュースが、インターネットという新しい技術に乗って流れている。古い問題と新しいテクノロジーの問題がミックスされているところに、今日のフェイクニュース問題があると言えるでしょう。この本はニュースの方法について考える本ですので、さしあたり第二の定義のほうに比重を置いてフェイクニュースを考えてみようと思います。
よくできたフェイクニュースほど、ディテールを書き込むというニュースの方法論をうまく使っています。そして、ニュースの歴史からわかるのは、よくできたものはプロの目、それも一流のプロの目をも騙すということです。
ニュースの歴史に残る「フェイクニュース」と言えば、アメリカを代表する新聞、ワシントン・ポストによる「ジミーの世界」事件です。それはこんな報道でした。