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「女性は男性に頼るもの」という偏見

 自治体の職員などに多いのだが、特に「何の問題もなく育った」人々のなかには、家庭は温かくて頼りになる受け入れ先であり、何かあれば逃げ帰れるシェルターのようなイメージを抱いているケースが多い。そして、「働けるのに働いていない人に、働くよう勧めるために保護申請の窓口はある」と思っている職員もいる。相談窓口を「拒否するためのもの」と取り違えているのだが、その誤解を支えているのが「女性は男性に頼るもの」という偏見だ。

「何の問題もなく育った」自治体職員のなかには、母親がこまめに家事と育児をし、父親ひとりが稼ぎ手だった、昭和の時代の「平和な」家庭をイメージしている者がいる。若い女性が相談に訪れると、「若いんだから働きなさい」「夜の仕事でも何でもあるでしょう」「付き合っている男性はいないの?」「家族がいるでしょう。まずは家族に頼りなさい」などと言って追い返す。

生活保護は自分たちが生きていくための権利

 切羽詰まって民間の相談機関に駆け込んだ後、男性の社会福祉士が付き添って再度申請する。すると、すんなり受理される。そのいっぽうで、女性の社会福祉士が付き添うと、1回での受理が難しいことがあるのも事実だ。窓口が男性職員だったりするとなおさらで、女性蔑視、女性差別の意識は実に根深いといえる。

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「男性に頼れないのは、あなたに女性としての魅力がないからだ」といった侮辱や、「若い人は受給できない」といったでたらめな説明をされたら、泣き寝入りせずにSNSで発信したり、新聞に投稿したり、異議申し立てをしてほしい。

「働いたことのないような人間には税金を使えない」といったモラルハラスメントを受けたら、精神的苦痛を受けたとして全国各地の弁護士会へ人権救済の申し立てをすることもできる。理不尽な対応を受けたら、「生活保護は自分たちが生きていくための権利だ」と正々堂々と主張してほしい。

 それと同時に私たちソーシャルワーカー、支援団体は今後も女性支援に注力していく。遠慮なく相談してほしいと願っている。

【前編を読む】「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態

コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来

藤田 孝典

毎日新聞出版(インプレス)

2021年8月2日 発売