日本で新型コロナウイルス感染者が確認されて1年余りが経過した。しかし、いまだウイルス根絶への道筋は見えず、感染拡大の影響で仕事やお金、住まいを失った人たちも数多い。はたして新型コロナウイルスによる影響で生活が追い込まれてしまった人たちはどのような不安を抱えているのだろう……。
ここではソーシャルワーカーの藤田孝典氏の著書『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』(毎日新聞出版)の一部を抜粋。同氏が相談を受けた2名の女性の深刻な実情を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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男女格差、正規と非正規……いびつな労働環境があらわに
「雇用の調整弁として非正規労働者は使いやすい」という当たり前になった言葉が、コロナ禍ほど実感できた時はなかっただろう。
日本の労働市場は1960年代以降の男女格差を文化として温存してきた。今回最も重要なのは、女性へのしわ寄せという構造的な問題が表面化したことである。
総務省が2020年12月1日に発表した10月の労働力調査によれば、正規労働者が前年同月から9万人増加しているのに対し、非正規労働者は85万人減少した。つまり、新型コロナウイルス感染拡大により、85万人の非正規労働者が何らかの形で辞めているのである。そのうち何と53万人が女性だ。
NHKが専門家と共同で実施したアンケート調査では、2020年4月以降、解雇や休業、退職を余儀なくされるなど、仕事に何らかの影響があったと答えた人の割合は、男性が18.7%であるのに対し、女性は26.3%であり、女性は男性の1.4倍に上っている。実際、女性が男性よりも高い確率で仕事を失っていることが指摘されており、業種別では観光や飲食、小売など女性が多く雇用されてきたサービス業で突出している。
ひとり親世帯の貧困率は2人に1人
数だけの問題ではない。男女間の賃金格差は大きく、2019年の給与所得者の年間平均給与は436万円であり、男女別では男性540万円、女性296万円(国税庁2020)。そして何らかの経緯で子どもを一人で育てていく場合、2019年の国民生活基礎調査では、ひとり親世帯の貧困率は48.1%と2人に1人が相対的貧困に陥っている。ひとり親にはシングルファーザーとシングルマザーがいるが、厚生労働省調べでは母子家庭は123.2万世帯と、父子世帯18.7 万世帯を大きく上回る(2016年度)。子どもを育てることに困難を抱えている女性の多さが見て取れる。
さらに、OECD(経済協力開発機構)諸国と日本を比較すると、親が就労していてもひとり親世帯の相対的貧困率は50%を超えており、先進諸国のなかで群を抜いている。日本の母親は、子育てと両立させながら必死に働いても収入が圧倒的に少ないことがわかる。