文春オンライン

「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態

『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』より #1

2021/09/30
note

 当然、コロナ禍でお客はだんだん減っていき、ノルマをこなすことも難しくなった。一生働ける仕事ではないことを改めて思い知らされる。常連客とのカラオケ中にふいに涙が出てきたり、テーブルに何を運ぶかを忘れてしまったり、ミスが続くようになる。一軒だけでは稼げなくなり、複数店をかけもちするようになった。

店を転々と渡り歩くも収入基盤が全滅

 夜の世界では、男性でも女性でも、規則正しい仕事に就くのが難しい人が多く働く。水商売なら辞めても別の店にすぐ移れるし、勤務形態も「今日これから行ってもいいですか」「明日行きます」と店に電話すればいいだけだったりする。日払いというのも助かる。そこまで柔軟な働き方を用意してくれているセーフティーネットが、夜の世界しかなかったといってもいい。

 飯村さんは店を転々と渡り歩きながら、その時々でお客の相手をしていたが、コロナ禍でその収入基盤が全滅した。2020年夏の時点で相談があった。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 所持金は数千円。彼女とのやりとりを通じて、幼い頃から激しい暴言と暴力を生母から受けていたことがわかった。出身家庭で心身に傷を負うと、子どもはその後の人生に大きなダメージを受ける。親の代わりに自分を受け止めてくれる庇護者(=男性)を探そうとして、家庭を持つことに過度な期待をしてしまう場合もある。たとえば、メールや電話にすぐ応答してほしい、どこにいるかいつも知らせてほしいなど、親に甘えられなかった分まで求める。飯村さんは家庭のぬくもりを求めて結婚。しかし、夫への愛情は親への代償行為である分激しく、結局破綻したという。そのことは、支援団体に送られてくるひっきりなしのSOSメール、

〈コロナで休業し、所持金がない。アパートを出るしかない〉

 といった文面からも読み取れた。幼児期から受けた虐待が積み重なり、大人になるにつれ重症化していったのかもしれない。家族に頼れないこと、仕事がないこと、精神を患っていることなど、いずれも生活保護受給要件は十分となり、手続きすることとなった。

その後、彼女から連絡は…

 飯村さんはやがて、「友人のところに住まわせてもらうことになった」と連絡をくれた。家賃の負担もなく、いわば「居候」らしい。相手は「男性の友人」ということだった。

 彼女の他者依存は、男性に嗜虐性を起こさせてしまうかもしれない。だが、どんなボーイフレンドですかといったことまでは踏み込めない。その後、彼女から連絡はない。

【続きを読む】「頼れる男性はいないの?」…セックスワーカーの女性(24)を“自殺未遂”に追い込んだ福祉職員の“言葉”

コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来

藤田 孝典

毎日新聞出版(インプレス)

2021年8月2日 発売

「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー