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「ホームレスにはなりたくない」「首をつるロープを買ってきました」…コロナ禍で社会福祉士の元に寄せられる“相談”の実態

『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』より #1

2021/09/30
note

〈実家に帰ることはできませんか〉

〈きょうだいが多いので、私が帰ると迷惑をかけるだけだし……〉

 実はこんな理路整然としたメールではなく、話が前後したり、矛盾した言葉が出たり、誤字があったりする。仕事がなく貯金も潰え、自殺を考え始めると、人はまともな文章が書けなくなる。ただ、状況が嘘でないことはメールの文面から読み取れた。

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 睡眠薬を大量に飲んだが死にきれなくて、メールをくれた人もいる。「追い出されたらホームレスになればいいや」と、あっけらかんと開き直ることなどできないからこそ、精神も危うくなるし、誰かに自分の暴走を止めてほしくて「これから死ぬ」と、支援団体に連絡をくれたりする。だから、「狂言ではないか」と高をくくらないでほしい。

自殺を実行してしまう場合も

 すぐに連絡が取れればいいが、こちらがつい見逃したりしていると、相談者は何度も発信しなければならない。繰り返し「これから死ぬ」と発信しているうちに、やがて自分が自分に暗示をかけることになって、実行してしまう場合もある。

 すぐに南さんの面談に入り、翌日には生活保護の申請に付き添った。仕事も貯金もなく、家賃も払えないのだから、待ったなしの措置である。生活保護の法的要件は、「生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用」しても、規定された最低限の生活ができないことが前提になる。「維持のため」の努力のなかには親や親族など、扶養義務者への扶養照会も含まれる。未成年の弟妹を抱える南さんの実家に自治体が照会したところ、「そういうことならぜひ保護を受けてほしい」という返答があった。

 実際、南さんの言うとおり、実家の資産状況は芳しくはなかった。地域により細かな額が違うので具体的には書けないが、まずは必要なだけの生活費が支給された。現金が振り込まれるまでの間は、社会福祉協議会が窓口になっているフードバンクで日用品と食品の無料支援を受けて、緊急事態を乗り切っている。

生活困窮者には食品と通信インフラの無料支援を

 フードバンクとは、地域の家庭や企業、休業店に呼びかけて、未開封の食料品や日用品を寄付してもらう民間の生活支援活動である。

 子ども食堂、シェルター(避難場所)、個人宅への配送など、状況に応じてさまざまな受 け取り方ができる。具体的な場所は、全国社会福祉協議会のホームページにアクセスして確認してほしい(https://www.shakyo.or.jp/network/kenshakyo/index.html)。

 こうした支援窓口にアクセスする手段を持たない人は、間違いなく窮地に陥る。保護費、給付金などが振り込まれたら、何よりも先に携帯電話(スマートフォン=スマホ)は復活させてほしい。そこまでの人生の岐路に立ってほしくはないが、「命か、家か、携帯電話か」という選択を迫られたなら、まず命、次に携帯電話が優先だ。