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衝動的な自殺の現場も数多い

 また、遺品整理をしていると、自殺に至った理由がそれとなく読み取れることがあります。先に紹介した浴室での自殺では、現場に分厚いレンズのメガネと高齢者用の紙おむつが残されていました。おそらく故人は、理解力や判断力は衰えていないにもかかわらず、身体機能が低下して体が思うように動かないというもどかしい状態に苦しんでいたのでしょう。

 また「計画自殺」の現場では、部屋の片隅にあった卓上カレンダーの裏に母親の書き残したメモがあり、日を追うごとに認知症の症状が進行して、親子仲がうまくいかなくなっていった様子が伝わってきました。決意したうえでの自殺は、その覚悟が遺品にも表れるのです。

 もちろん、衝動的な自殺の現場も数多くあります。

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 ただ、自殺だと判断されたケースでも、実は事故だったということはあるのかもしれません。たとえば、自慰行為の最中に亡くなった可能性が考えられるケースがこれまでいくつかありました。

自殺を図るときにズボンを脱ぐ理由

 首つり自殺と聞くと、椅子の上に立って高い場所から垂らしたロープに首をかけるシーンを思い浮かべる人が多いと思います。実際に特殊清掃の現場で見つかるのも、ぶらさがり健康器や和室の鴨居、ロフトなどに紐をかけた形跡です。

 しかしまれに、ドアノブにかけた紐やタオルで首を吊って亡くなったという現場に出くわすことがあります。しかも、なぜか決まって下半身だけが裸だったというのです。

 孤独死の現場ではズボンを穿いていない状態で亡くなることは珍しくありません。ただそれは、突然の体の異変からトイレに駆け込もうとしていたり、急激にお腹を下したりしたと考えられる場合です。自殺を図るそのときにズボンを脱ぐというのは、一体どういうことなのでしょうか?

 実は一時期、首を絞めながら行う自慰行為がインターネット上の一部で流行していたと聞いたことがあります。もしもドアノブを使った首つり自殺の真相が、自慰行為の最中に起こった事故死だったのだとしたら……。それは自殺と同じくらい、不幸なことかもしれません。

【前編を読む】死後1か月の亡骸が残された部屋で発見した2匹の猫…“事件現場清掃人”が明かす「人を殺す部屋」の共通点とは

事件現場清掃人

高江洲敦

飛鳥新社

2020年11月25日 発売