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2021/09/17

source : 文春新書

genre : ニュース, 読書, 社会, テクノロジー

「息子にはまだスマホを与えていないので、私が使わなくなった中古のタブレットを動画視聴用に使わせていました。ふだんは小学生に人気のユーチューバーの動画やゲーム実況を見ていたので、特に気にも留めなかったんです。それが、たまたま検索履歴を見たら『おっぱい』って表示されたんですね。驚いて過去の視聴動画を調べたら、グラビアアイドルがきわどいポーズをしていたり、女性がノーブラで胸をユサユサさせながら走っていたり、入浴シーンのある動画を見ていたことがわかったんです」

 ユーチューブなど大手の動画投稿サイトでは近年規制を強化し、アダルトビデオのような性的描写を含む動画を排除する動きが強まっている。一方、「おっぱい系」などと呼ばれる動画では、授乳の方法を解説するような健全なものもあれば、露出の多い服を着た女性がバストを強調したり、偶然見えてしまった胸の谷間を映し出すものもある。子どもはこうした動画を調べ、友達と楽しんでいたようだ。

「男の子の性的興味は、自分でも思い当たるのでよくわかるんです。ただ、まだ8歳でいくらなんでも早いし、友達と一緒に見ていたとなると先方の親御さんの反応も気になります。本来なら連絡を取って事情を説明したほうがいいんでしょうが、息子の話では友達のほうが主導的立場だったようで。どんなふうに話を持ち掛ければいいかと悩んでいるうちに、時間が過ぎてしまいました」

子ども向けを装う不適切動画

 この父親は子どもの好奇心に理解を示しつつ、今後は親の目が届く範囲で動画を視聴するよう約束させた。一方、子ども向けアニメなどごくふつうの動画を楽しもうとして、不適切な動画が再生されてしまう場合もある。代表的なものが「エルサゲート」だ。

©iStock.com

 エルサゲートとは、人気キャラクターを登場させるなど子ども向けと見せかけて、ショックを与えるような内容を持つ動画のこと。ディズニー映画『アナと雪の女王』の登場人物エルサと、事件や不祥事、スキャンダルを意味する接尾語ゲート(-gate)が組み合わさった造語だ。

 たとえば子どもが「アンパンマン」や「スパイダーマン」など、馴染みのある言葉で検索すると、キャラクターに似せたアニメや人形の動画が再生される。一見楽しい内容かと思えるが、実際にはキャラクター同士で殴り合ったり、生き埋めにされて処刑されたりするような残虐なシーンが現れる。

 動画を見る際は、まずサムネイル(画面を縮小した見本表示)を確認することが一般的だが、キャラクターが描かれたサムネイルだけでは残虐なシーンがあるのかは判断できない。むしろ楽しい動画だと思って視聴をはじめると、突然恐ろしい展開になったりする。偶然にせよ、こうした動画を見てしまうと、似たような関連動画がリストアップされたり、「自動再生機能」によって次々と再生されたりする。

 前述したようにユーチューブなどの動画投稿サイトの規制は強化されているのだが、子ども向けと装った上で残虐なシーンを埋め込んだりと巧妙な方法が取られている。楽しいはずの動画視聴が一転、ショッキングな経験となる可能性も少なくない。

 2020年時点でのユーチューブの動画投稿数は毎分500時間分にも上る。中高生に人気の動画投稿アプリTikTokは、同年のダウンロード数が世界1位となった。それだけ投稿数が多く競争が激しいため、より過激に、世間の話題を集めやすい動画をあえて公開するような動きも活発化している。

 いつでもどこでも、気軽に楽しめる動画にも思わぬリスクがある。それを認識しないまま、「タダだから」、「楽しそうだから」と安易に利用させているとしたら、残念ながらおとなは真に子どもを守ることができないだろう。
 

スマホ危機 親子の克服術 (文春新書)

石川 結貴

文藝春秋

2021年9月17日 発売

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