2005年にグローバルでサービスを開始したYouTubeだが、現在では世界中で投稿される動画の量は毎分あたり500時間を超える巨大プラットフォームへと成長している。昨今では大物芸能人の参入が相次ぎ、さらにコロナ禍による外出自粛という「追い風」もあったため、日本における月間ユーザー数は過去最高の6500万人を記録した。

 一方で、ヘイトスピーチや誹謗中傷を含む動画、あるいは違法動画が社会問題化することも少なくない。去る8月7日には246万人ものフォロワーを持ち、作家やYouTuberとして活動する「メンタリスト」のDaiGo(ダイゴ)が、ライブ配信でホームレスや生活保護受給者の生命を軽視する発言を行ったことも記憶に新しい。かねてより、注目を集めて動画の再生数を伸ばすために過激な投稿を行う「迷惑系YouTuber」の存在は問題視されており、刑事事件として逮捕に至るケースも増えてきた。

インタビューに応じるYouTube日本トップ仲條亮子氏

 世界を股にかけた巨大プラットフォームが日本社会に与えた「光」と「影」について、YouTubeの“日本トップ”である仲條亮子氏に聞いた。(全2回の1回目/#1を読む)

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「月間20億人」の巨大プラットフォーム、その功罪

――今年でYouTubeはサービス開始から16年目です。かつてはミュージックビデオや若年層向けの動画コンテンツの印象もありましたが、利用者数は伸び続け、日本では月間6500万人を超えました。

仲條 YouTubeでは現在、世界中で毎月のログインユーザーが20億人以上いて、1日あたりの総視聴時間は10億時間を超えています。ひとえに視聴者の方や動画を投稿してくれているクリエイターやアーティストの方々のおかげだと思っています。

《仲條亮子氏はテレビ局などを経て、2013年にGoogle日本法人執行役員。2017年よりYouTube日本代表に就任》

©iStock.com

――やはり、コロナ禍で自宅で過ごす時間が世界的に増えたことが大きいですか?

仲條 ここ数年で、動画配信サービスを利用する方が全体的に増えたことは間違いないと思います。昨年来、伸びたジャンルはいくつかあるのですが、ひとつは「学び」「教育」のジャンルです。その他にも、皆さんが外出自粛をする中で日常的に悩んでおられることだと思いますが、運動不足解消のために自宅で身体を動かすための「ワークアウト」動画も人気です。

 また、これまでYouTubeに馴染みのなかった高齢層がサービスに触れる機会にも繋がっています。高知市で開発された高齢者向けの介護予防運動の動画「いきいき百歳体操」をYouTubeを通じて配信するという自治体も出てきています。NHKの「みんなで筋肉体操」(編集部註:筋トレを指導する5分間のミニ番組。「筋肉は裏切らない」のセリフで有名)など、身体を動かすための「ワークアウト系」動画もよく見られました。ユーザー層の年代にも広がりがでてきたことが、結果として利用者増加につながっていると思います。

――学生がリアルに通学できない中で、「教育」に関する動画も注目されています。「朝日新聞」や「日本経済新聞」などでは教育系チャンネル「とある男が授業をしてみた」が取り上げられました。

《元塾講師である“教育系YouTuber”葉一(はいち)氏が数学、国語、英語などの教科を学生向けに解説する「とある男が授業をしてみた」のフォロワーは154万人。新聞記事では、自宅学習を余儀なくされた「子供たちの学習に授業動画は欠かせないツール」と報じられている。※日本経済新聞2021年5月25日公開「教育YouTuber葉一さんが説く 授業動画の賢い使い方」》

教育系YouTuberの葉一氏(HP「19ch(塾チャンネル)」)より)

仲條 そうですね。「教育」動画については、葉一さん以外にも、ヨビノリのタクミさんがやっている「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」も人気です(76.5万フォロワー)。その名の通り、学校で学ぶ理系の勉強をサポートしてくれる内容で、大学などでは「参考図書」ならぬ「参考動画」になったりしているようです。