トムはMTVがアメリカで一時経営難になったときに、ダイアー・ストレイツの「I want my MTV」という歌詞が出てくる曲を使ったマーケティングで窮地を救ったことで有名です。I want my MTV~というフレーズが、僕の世代にはすごく刺さっていたので、「あれを仕掛けた人なんだ」という憧れがすごくありました。
彼に初めて会ったのはニューヨークにあるハリウッド映画に出てくるような大きなオフィス。その頃はちょうど売上が芳しくなく、全世界から社長を呼んで、壇上でみんなに話がある……と登場したのです。
てっきり「リストラだ!」みたいな話になると思って、みんなドキドキして待っていましたし、私自身、雰囲気に気圧されて怖いイメージを持っていたのですが、すごくナイスガイな白髪のおじさんが出てきた。そして壇上に上がってきて、マイクをポンポンポンと叩き、「キーン」とハウリングが響き渡った後、ひと言「頼むから売ってくれ!」と(笑)。
みんなドッと笑って、その年、MTVは史上最高の売上になりました。この人を成功させよう、このブランドを成功させようという思いが湧き上がってきたのを覚えています。
また、トムが日本に来たときに六本木で飲んでいたら、彼の携帯に親会社のバイアコムの会長から電話がかかってきて、MTVネットワークスのCEOから、バイアコムのCEOに昇格するという連絡だった、ということもありました。僕が今でもMTVにロイヤリティを持てているのは彼の存在が本当に大きいのです。
しばしば経営者は「株価がどうだ」などで影響されがちだが…
それはジャック・ドーシーも同じで、二人に共通しているのは、すごく共感できるビジョンを持っていてそれが揺るがないこと。そして確固たるプリンシプルを持っている。経営者は株価がどうだとかそういうことで判断が変わってしまうことも多いのですが、彼らに限ってはそういうことがなかった。だから「この人に一生ついていこう」という気持ちにさせてくれる人たちでした。
彼らのように、会社の未来を描くビジョンと人を惹きつける魅力を持ち、ブレない信条がある。そんなCEOであれば、カリスマと呼ばれるようになるのも当然だと言えるかもしれません。
写真=佐藤亘/文藝春秋