市民襲撃の4つの事件で殺人などの罪に問われ、「工藤会」トップで総裁の野村悟被告(74)に死刑が言い渡された。かつて「暴力の街」「修羅の街」と呼ばれ、工藤会が牛耳った福岡県北九州市。工藤会壊滅作戦の現場を指揮した福岡県警元刑事で、「県警VS暴力団 刑事が見たヤクザの真実」(文春新書)の著書がある藪正孝氏が語る、工藤会・野村悟総裁の真の姿とは。
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五代目工藤會・野村悟総裁、予想外の死刑判決
8月24日火曜日、福岡地裁は、五代目工藤會・野村悟総裁に対し死刑、田上不美夫会長に無期懲役の判決を下した。報道によると、野村総裁は裁判長に対し「全然公正じゃない」「生涯後悔するぞ」と発言したという。野村総裁も死刑判決はショックだったのだろう。私自身も無期懲役を予想していた。
警察庁は平成24年以降、暴力団等の意に沿わない事業者等への襲撃事件を「事業者襲撃等事件」と呼び、平成19年以降の発生件数を公表している。平成25年版警察白書では、平成20年から平成24年までの間に発生した事業者襲撃等事件の件数が掲載された。その1位は福岡県で57件、以下佐賀県7件、東京都・岡山県各5件と続く。私は、57件中、工藤會によるものは30件、残り27件は福岡県の道仁会と太州会によるものと推測している。
平成24年12月、工藤會は全国で唯一、暴力団対策法により特定危険指定暴力団に指定された。そして平成26年9月、野村総裁ら工藤會主要幹部が検挙され社会から隔離されて以降、工藤會による襲撃事件は皆無、全国の事業者襲撃等事件も激減し昨年はわずか1件だった。
今回の死刑判決は、間違いなく工藤會にとって大打撃だ。そして、他の暴力団はそれをしっかり学習している。だが、平成25年春まで工藤會対策に携わってきた私にとっては、喜びも半ばだった。なぜなら、工藤會壊滅、暴力団壊滅、未だ道半ばだからだ。
野村総裁らに対する今回の判決は4つの事件に対するものだ。1件が元漁協組合長に対する殺人事件。そして残りは、福岡県警元警部、元漁協組合長の孫にあたる歯科医師、女性看護師が被害にあった組織的殺人未遂事件3件だ。