実績ある研究者を狙い撃ち
44人のうち、参加の経緯を明かした研究者の大半が、日本に留学していたかつての教え子や、共同研究を行った研究者ら旧知の中国人から誘われたと証言した。中国が研究者ネットワークを活用し、優秀な海外人材を採用している実態が浮かび上がる。
千人計画では通常、参加を希望する研究者自身が、経歴や業績をまとめた書類を中国の大学や研究機関に提出して応募する。その後、中国国内で数段階の審査が行われ、面接審査を経て内定が出る。計画に詳しい関係者によると、「世界中から毎年数千人の応募が殺到し、採用は宝くじに当たるほど難しい」という。
だが、実績のある日本人研究者については、中国側から積極的な勧誘が行われ、本人はそれほど苦労せずに計画への参加が決まっていた。14年から2年半、浙江大で研究活動を行った東大名誉教授の男性は、定年を迎えた後、かつての教え子だった元中国人留学生の浙江大教授から誘われた。応募手続きはこの中国人教授が進め、北京で行われた選考会でも教授が男性に代わって業績を発表した。男性は採用決定後、任期や報酬を定めた契約書にサインしたが、「正直、選考過程はよくわからない」と明かした。
北京理工大で20年1月まで約3年半、学生を指導した京大名誉教授の男性は、京大を退職する直前、以前に共同研究を行った中国人研究者から誘われたという。男性は自身の論文リストや経歴書を中国に送り、1000人計画に応募した。審査の手続きは詳しく知らされず、「忘れた頃に採用通知が届いた」と振り返る。
優秀な技術を持つ研究者を狙い撃ちしているとみて間違いないだろう。湖北省の華中科技大で18年から千人計画に参加する男性教授は、中国側から各国の研究者の業績評価を依頼されたことがあった。男性教授は「中国の大学や研究機関は世界中の優秀な研究者を常に探しているようだ」と指摘した。
「殺戮ドローン」を作る技術も
中国が最先端技術を持つ外国人研究者を厚遇で囲い込んでいるのは、純粋に科学的な理由からだけではない。
内部に3グラムの指向性爆薬を備えた手のひらサイズの小型ドローン群が、顔認証システムを使ってターゲットを捜索・追跡し、見つけ次第、額にくっついて脳だけを爆薬で破壊して殺害する──。
テクノロジーの未来について研究している「フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート」のスチュアート・ラッセル米カリフォルニア大バークレー校コンピューターサイエンス教授が、17年に制作したショートムービー「スローターボッツ(殺戮ドローン)」の一場面だ。自律型のAIロボット兵器が悪用される恐怖の世界を描き、関係者に衝撃を与えた。