自国の影響力、支配力を強化しようと、価値ある技術やデータの収集を進めている中国。そうした現状を危惧して、アメリカは中国に厳しい目を向ける。一方、日本の対応はどのようになっているのだろうか。
ここでは読売新聞取材班の取材成果をまとめた『中国「見えない侵略」を可視化する』(新潮新書)の一部を抜粋。日本の学術界におけるリスク回避の問題意識を検証する。(全2回の2回目/前編を読む)
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外国が技術窃取を実行している実態を詳述
世界から優秀な頭脳が集まり、研究成果が米国に還元されるはずが、気がつくと外国に流出していた──。
米国立科学財団の委託を受けた科学者の諮問グループ「ジェイソン」が19年12月にまとめた報告書「基盤的研究の安全保障」(ジェイソン・レポート)は、米国のオープンな学術環境を悪用して外国が技術窃取を実行している実態を詳述している。研究インテグリティ(研究公正)を害するような外国の不正な影響行使の手法についても、情報機関などの協力を得て詳細に分析し、4つのタイプに分類した。
1番目は、高額の給料、住居、立派な肩書や研究費、研究施設などの報酬である。こうした報酬は、米国を含む多くの国でも普通に見られるが、研究の公正さを害する行動を取らせる動機になり得ると指摘した。そうした行動には、承認を得ないで行う情報共有、試作品などの窃盗、米国の研究グループへの外国人留学生の参加を認めることなどが含まれる。報酬を所属組織に知らせないことが条件となっている場合もある。
2番目は、詐欺的手法だ。外国人研究者が母国で軍や治安機関、軍系の大学などに所属していることを隠すことが代表的な例だ。米国に来て、極超音速やAIといった機微技術を学ぼうとしている留学生が、目的を偽ることもある。
3番目は、脅迫や強制といった威圧的手法である。脅迫は、社会的な非難から肉体的な苦痛までを含む。外国人留学生の場合、情報収集などの依頼を断れば、母国から奨学金を停止されるといった形式を取る。法律によって情報機関や治安機関に協力するよう要請されることもある。米国の研究者の場合には、資金や名声、外国での特権的地位を失うと脅されることがある。人材招致プログラムの契約に、参加を明かさないようにする条項が含まれている場合、脅迫に使われると指摘している。
4番目は、知的財産の窃盗だ。サンプル、試作品、ソフトウェア、文書やアイデアといった研究成果が失われることを意味する。外国人研究者は米国の研究者に比べ、研究中の知的財産を流出させやすいとしている。