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日本の大学は技術流出に甘い? アメリカが危惧を強める中国の“科学技術剽窃”問題…不満を抱える科学者たちの“本音”

『中国「見えない侵略」を可視化する』より #2

日本の大学が米国の名門大学とは共同研究ができなくなる?

 また、前述したように、千人計画に採用された日本人研究者の多くは、旧知の中国人研究者から厚遇で招致された。軍事転用可能なものなど、中国にとって価値のある技術や情報を持っているためだ。

 日本で教授などのポストが得られないため、中国に渡って研究を続ける若手研究者が、その時点で千人計画に採用されるケースは極めてまれだ。参加者の一人は、「応募資格条件がかなり厳しい。学位を取得した大学が世界の大学ランキングで200番以内といった条件のほか、受賞歴などの項目が20ぐらいあった」と証言する。議論する際には、若手研究者の研究環境と千人計画の間に直接的な関連は少ない点に留意すべきだろう。

 日本の研究環境が中国に比べて悪いからと言って、研究インテグリティに反するような技術流出に目をつぶっていい理由にはならない。

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 現状のままでは、日本の大学は技術流出に甘いと、米国などから懸念をもたれかねない。

「このままだと、日本の大学は最先端の研究で知られる米国の名門大学とは共同研究ができなくなる」

 経産省幹部はこう懸念を口にする。

 内閣府の委託事業として20年秋に設置された「研究インテグリティに関する検討会」(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)は、「研究開発活動における国際ネットワークの強化が推進される一方で、国際的に科学技術情報の流出等の問題が顕在化しつつある」として、研究インテグリティを確保する必要性を強調した。

 20年10月28日の検討会資料では、外国からの不当な影響について、「国家安全保障上の問題が生じる」「知的財産権を奪われる」「製造業等の市場を奪われる」「第三国の人権が侵害される」といったリスクを例示している。

 ところが日本の学術界は、こうしたリスクを回避する問題意識が欧米に比べ希薄だった。千人計画に参加していた日本人研究者の一部も、米国の基準などに照らせば、軍事転用を含む研究インテグリティに無頓着だったと言わざるを得ない。

【前編を読む】「中国政府の千人計画に応募しませんか」待遇は5年で2億円…日本人44人が参加する“国家プロジェクト”の実態に迫る

中国「見えない侵略」を可視化する(新潮新書)

読売新聞取材班

新潮社

2021年8月18日 発売

日本の大学は技術流出に甘い? アメリカが危惧を強める中国の“科学技術剽窃”問題…不満を抱える科学者たちの“本音”

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