どんどん短くなっている気がする春と秋。「アツイ……」「さっぶ!」ではなく「あったかい」「涼しい」という穏やかな気温に浸れる時間はもはや貴重。大切に過ごしたい。
そして今年もやっと夏が終わり、秋がくる。この時期私が猛烈に聴きたくなるのが安全地帯である。まさに音を耕すファーマー。彼らの曲から放出される「実り」のエネルギーは、最高に美味である。この自然が最高に美しい季節、たくさん頬張りたい。
デビュー直後はむしろ「危険地帯」だった
「安全地帯」というグループ名は、道路標識の安全地帯マークが由来らしい。玉置浩二・武沢豊(侑昂)がバンドを立ち上げた高校時代、同級生が命名。道路標識の「V」がピースマークと重なるので気に入ったそうだ。
しかし私が彼らを初めて見たときの印象は逆。ものすごく危険地帯の人々に見えた。
出会いは1984年の「ザ・ベストテン」。「ワインレッドの心」で初登場した安全地帯は、濃くアイシャドウを塗ったボーカルの玉置浩二が、スタイリッシュ過ぎて怖かった。
しかもこれまで聴いたことがない、独特の色気ある囁き歌唱。洗練された都会的で妖しいメロディ。「もっと勝手に恋したり もっとKissを楽しんだり」の「Kiss」が、「キッス」と強調されて聴こえてくる!
タイトルの「ワインレッド」という色の名前も、子どもには縁のない色のようで、よりエロチックに感じてしまった。当時ド田舎でボーッと過ごしていた私には、関わってはいけない18禁の世界に思えたのである。
「碧い瞳のエリス」で扉が開いた
一度は閉じた安全地帯への扉。ところが1985年の10thシングル「碧い瞳のエリス」で急に開いた。歌詞の深い意味はわからなかったが、大事にしている時計やオルゴールに心があって、その声を聴いている気がしてビックリしたのである。
「どんなに悲しいことも私に伝えて」「初めて聞いた声が懐かしい」。玉置浩二の声は相変わらず囁くようだったが、無性に切なくて、ついにCDを買おうと決めた。
ところが、メンバー5人がじっとこちらを見るジャケット写真の圧に負け、買えず……。
結局安全地帯のCDを手に取ったのはもう少し後。18を超えてからだった。