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「退屈が鬱になる。どんな人も一生かけてすることが必要なんです」 “いのっちの電話”の坂口恭平が“空っぽ”のコロナ禍で始めた日課とは

「退屈が鬱になる。どんな人も一生かけてすることが必要なんです」 “いのっちの電話”の坂口恭平が“空っぽ”のコロナ禍で始めた日課とは

『土になる』に寄せて

2021/09/17
note

毎日を生きるためのささやかな技術

――畑をめぐる個人的な日記のようで、生きづらさを感じている人たちへのヒントにも満ちていますね。

坂口 僕は畑をやるまで、何もない田舎にいると落ちていたし、西日が嫌いで夕方はアトリエに籠っていた。そういう虚しさから逃げるために鬱になっていたんです。でもいまは虚しい状態のままでも、道ができてその先に進めるようになった。秋冬は畑もそれなりに寂しいけど、でも元気に育っている野菜もあるし、土を寝かせる必要があることもわかる。でも次の秋冬には土からレタスが育ってくるイメージもある。それが安心につながるんですよね。

坂口さんが熊本の風景を描いたパステル画

 いままで経験したことのなかったことが起きて、その変化を書く過程で自分が成長しているのが面白いし、しんどさを感じている人のヒントになったらいいですよね。いまは誰もが意識的に土から離されている可能性があるから、レジスタンスとして畑をやるのは大事だと思うんです。やっぱり土に種を植えると芽が出るし、芽が出るだけで気持ちが上がってくる。それってパステル画を毎日描き続けて、いつしか枚数がたまってきて、描き損じても簡単には消さなくなることなんかと同じなんです。それが鬱ではなくなる過程に、そして安心につながっていく。この本はそうやって、毎日生きる上でのささやかな技術を遅まきながら初めて知った人の物語でもあるし、身をもって答えを見つけた物語でもあると思います。

土になる

坂口 恭平

文藝春秋

2021年9月14日 発売

「退屈が鬱になる。どんな人も一生かけてすることが必要なんです」 “いのっちの電話”の坂口恭平が“空っぽ”のコロナ禍で始めた日課とは

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