実はバスよりも難しい?「車載」鉄道の電源問題
そこで、せっかくなのでこの“車載型IC改札機”の導入を進めたJR西日本の担当者に話を聞かせてもらうことにした。営業本部の早田良平さんと施設部の片山知也さんだ。そもそも、この車載型IC改札機、何が特別なんですか?
「鉄道車両にIC改札機を載せるというのはいろいろとハードルがあるんです。鉄道車両はもともとさまざまな設備を搭載しています。IC改札機をそこに新たに組み込むとなるとどうしても苦労が多い。たとえば、IC改札機を動かすにはもちろん電気が必要ですが、実は鉄道車両って電気の配線ひとつ新しく通すのも難しいんです」(片山さん)
車載型IC改札機が導入されたのは関西本線加茂~亀山間で5線区め。2019年3月の境線への導入を皮切りに、2020年3月には和歌山線(和歌山~五条)、2021年3月に関西本線(加茂~亀山)のほか七尾線や紀勢本線(紀伊田辺~新宮)と導入線区を拡大してきた。このうち、境線と関西本線は非電化路線だが、そのほかはすべて電車が走る電化路線だ。
電車ならば電気をふんだんに取り入れて走っているのだから、電気に苦労することなどないと思いがちだが、実際にはそうではないという。
車両の中には走行に必要な装置から空調、車内ディスプレイなどさまざまな電気機器があり、それぞれの配線が巧みに張り巡らされている。その中に、車載型IC改札機を加えるというのは車両関係の部門との調整も必要になる作業だというわけだ。実はバスなどの自動車よりも、鉄道の方が新たに電源を得ることは難しい。
「さらに、バスですと基本的に車両1台で完結するのが一般的ですが、鉄道の場合は複数の車両を連結して走りますよね。そうなると車載型IC改札機も他の車両と連携しなければいけません。車両間をつなぐケーブルを使うこともできますが、それが難しい場合もあるので無線LANを利用しているケースもあります」(片山さん)
また、鉄道車両はいつも同じ編成で走っているわけではなく、運用によって車両を切り離したりくっつけたりすることもある。車載型IC改札機はこのようなあらゆるパターンに対応させなければ意味がないのだ。