「都市部の方は慣れていますが…」
「ただ、都市部の方々はIC改札機に慣れていますが、車載型IC改札機を導入した線区はいずれも地方ですので、お客さまや乗務員、駅係員を含めてICカードに馴染みがない人が多いんです。
だからどのようにして広くご利用いただくかが課題でした。境線では沿線の高校などにもICカードと改札機の説明に足を運んだと聞いています。単に鉄道利用だけでなく、買い物などにも幅広く利用できるというメリットを伝えていかなければならないと思っています」(早田さん)
ちなみに、車載型IC改札機を導入した線区を中心とした地方都市では、ICカード定期券を持ちながらもタッチせずに運転士に見せるだけで乗降する学生もいるとか。ICカード定期券の券面には磁気定期券と同じように区間・期間が書かれているが、規約上ICカード定期券は“タッチする”ことがマスト。見せるだけで改札を通過したり列車から降りるのは正しい乗車ではないのだ。
「実際に運用をはじめてみると、思った以上にご高齢のお客さまのご利用が多いんですね。いろいろと現場の話を聞いてみると、降りるときに財布からお金を取り出して運賃を入れるのがどうしても手間になっていたようで。当初は学生さんのご利用が中心だと思っていたので、これは予想外でした。ですが、確かにご高齢の方にも便利にお使いいただけると思いますね」(早田さん)
駅にIC改札機を“おけなかった”理由
そもそも前提として、交通系ICカードはある程度の利用があるエリアが対象だ。そうした中でも年々エリアは拡大しており、ワンマン運転のローカル線でも一定の利用がある線区では車載型IC改札機のニーズがあると判断したという。コロナ禍の影響もあって非接触による運賃収受への需要も高まっているだろう。
「駅にIC改札機を置くとなると、保守点検も含めて結構なコストになるんですね。車載式型IC改札機ではそれが削減できると同時に、交通系ICカードというサービスを提供できる。そのメリットは大きいと考えています。これまでは導入が難しかったエリアでも、交通系ICカードを導入できるようになる。新たな選択肢が生まれたということですね」(早田さん)
さらに今回JR西日本が開発したこの仕組み、地方私鉄やバス会社などからも注目されており、すでに同様の技術を応用して一部のバス会社への導入も進んでいるという。今後も広がりを見せていくことは間違いなく、ますます“交通系ICカード1枚”(というかSuicaならスマホやApple Watchだけ)で行動できる範囲が増えていきそうだ。
写真=鼠入昌史