バスとは何が違う?
これまでは、車内に表示されている運賃表示器を運転士が手動で駅ごとに切り替え、整理券番号を確認して乗客自身が運賃を確認して支払っていた(つまりバスと同じだ)。となると、運転士が駅の切り替えを忘れると誤収受につながることがありうる。その点、GPSによって自動で切り替わる車載型IC改札機ではそうしたミスも防ぐことができるというわけだ。
また、運賃計算の方法もバスとはまったく異なっている。バスは運賃表示器から運賃データを取得して、降車時にその金額を引く方法が一般的だ。だが、鉄道では運賃表示器からのデータ取得は行わず、車載型IC改札機を含むすべての改札機がエリア内全駅からの運賃データをあらかじめ持っているという。
「鉄道の場合ですと、たとえば最初に導入した境線の場合は岡山駅から特急『やくも』に乗車して米子駅からさらに乗り換えて境線へ、という乗車パターンがあるんですね。
バスはひとつの車両で完結することが多いと思いますが、こうした乗り換えが発生するのも鉄道の特徴。当社では基本的に200km圏内でICカードが利用できるので、200km圏内すべての駅からの運賃データを改札機が持っています。
なので、先の例で境港駅で下車する場合、境港駅の改札機が持っている“岡山から境港まで”の運賃を引くことになります」(片山さん)
もう少しかみ砕くと、境港駅のIC改札機は境港駅から200km圏内の交通系ICカード使用可能駅からの運賃データをすべて持っている。一方、カード自身も入場時に“岡山駅入場”というデータを保持したままになる。出場時のタッチの際には境港駅の改札機が持っている岡山~境港間の運賃(ちなみに3080円である)を即座に引き落とすというイメージだ。
よくよく考えると当然のことで、タッチされるごとに改札機が通信して運賃データを取得していたらいまのようなスピードで改札機を通ることはできない。あんな小さなIC改札機も、実は膨大な運賃データを内部に抱えているのである。
こうした仕組みは車載型IC改札機ももちろん同じ。ただし、移動するので運用線区各駅のデータをすべて持っているということになる。
と、お客の立場からすればタッチするだけで鉄道を利用できてしまう気軽なIC改札機。だが、そのシステムはかくも複雑なのだ。それに加えて、“移動”と“車両への搭載”というハードルをクリアしなければならなかった車載型IC改札機。毎日交通系ICカードを使用している都市部の人たちにとっては何にも特別には見えないが、実にスゴいやつなのである。