携帯はもちろん圏外、パンクでもしたら命取り
この国道の魅力は、ただ道が酷いだけではなく、景色がいいことだ。沿道には山々を眺望できるスポットや、複数のダムや滝が存在する。先に紹介した銚子滝・不動滝のほかにも多くの滝があり、どれも見応えがある。酷道の運転に疲れた時、そうした絶景が励ましてくれる。
一方で、路面のアスファルトが剥がれて大きな穴が開いていたり、落石が転がっていたり、山の斜面から木々が落ちそうになったりしているので、一瞬たりとも気が抜けない。携帯電話はもちろん圏外。
こんなところでパンクなどのマシントラブルに見舞われたら、命取りになりかねない。小さな落石も踏まないように、より慎重に運転する必要がある。
和歌山県に入り、田辺市龍神で国道371号との重複区間に入ると周囲は街になり、道路状況は改善する。その後も狭い区間はあるが、これまでのことを思うと快適に感じるから、不思議なものだ。この行程の途中にある街は、奈良県の下北山村と十津川村、そしてこの和歌山県田辺市龍神の3箇所だけだ。
2.8キロの改良工事に9年かかった
途中、滝やダムに立ち寄りながら走っていると、終点の御坊市に到達するまでに12時間近くを要する。酷道を走っているだけで、1日が終わってしまうのだ。走り終わる頃には、酷道マニアでも酷道が嫌になるほどだ。さすがは“日本三大酷道”の一つと言えるだろう。
そんな酷道425号だが、実は道路改良も少しずつ進められている。今年3月には、和歌山県印南町川又で行われていた改良工事が完了した。だが、2.8キロ間の改良に9年の歳月と、36億円の事業費を要したという。全線の改良など、まだまだ先の話になりそうだ。
現状の国道425号で紀伊半島を横断するのなら、大きく迂回して他のルートを走った方が、はるかに早くて安全だ。確かに、そこには転落による生命の危険やガス欠のリスクはない。しかし、絶景を独り占めできることも、走破した後の格別な達成感も無いだろう。
あなたなら、どちらのルートを選ぶだろうか。
撮影=鹿取茂雄
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