さらに、こんなこともあった。2016年7月、警視庁の交通安全イベントの発注先を選ぶ際、A警視長が女性の会社に有利な発言を行い、発注を働きかけたのである。このコンペに参加していたのは5業者。事前投票では女性の会社は3位であり、平均点にも及ばなかった。が、そのことを知らされた女性が「どうにかならないか」と依頼すると、「ちょっとやってみる」と応じた。そして、選考委員会のトップを務めた警視長は「今回は子ども向けを重視すべきだ」などと発言し、女性側の企画が選ばれるよう誘導したのだった。警視長は「1番にしておいたよ」と女性に報告したという。
このほか、警視長は交通総務課長を離れる2016年8月までに9件の便宜供与を行った。警視庁や東京都交通安全協会が関わったポスターやグッズの制作、イベントの開催などで女性の会社が仕事を受注できるよう助言したり、内部で働きかけたり、協会と調整したりしたとされる。
逮捕を免れ、ひそかに退職
離任後も、さらに便宜供与は続いた。
2016年10月、警視長は警察庁の犯罪収益移転防止対策室長に異動していたが、女性に頼まれ、警視庁管内の警察署に電話し、その警察署の管内で開催されるイベントに警察署として参加するよう求めたのである。女性がこのイベントにかかわっていたからだ。要請を受けた警察署は翌月、イベントに参加し、交通安全教室を開いた。なお、その際にはA警視長自身が会場に顔を見せていたともいう。
また、同年11月、警察庁に出向経験があり、顔見知りであった徳島県警の警察官に連絡を入れ、女性の会社が営業にかかわっているタレントを県警のイベントなどで起用できないかと依頼。同月下旬、このタレントは交通安全を推進するイベントに出演している。さらに、同年12月には福岡県警にも電話を入れ、同様の依頼をした。
県警は県庁に働きかけ、県は翌年2月の飲酒運転取り締まり期間に配るグッズのキャラクターとして、このタレントを起用したのである。
これら以外にも6件の仕事で便宜を図ってもらったと女性は証言している。
すべてを合わせると、A警視長は女性と知り合って以降、20件にも上る便宜供与を行っていたことになる。これに伴い、警察からの発注で多額の税金が費消された。
こうしたことが明るみに出るに及んで、警察庁はようやく動き出した。A警視長を警察庁長官官房付として留め置き、10ヵ月にわたって調査を行ったのである。だが、その結論は発注の手続きに問題はなく、警視長が便宜を図ったことはなかった、というものであった。
かくして、A警視長は逮捕を免れ、不適切な交際関係などについてのみ責任が問われ、停職処分を受けたのだった。
A警視長は2017年12月、退職した。
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