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 では、田舎暮らしの本当の価値とは、いったいどこにあるというのだろうか?

 20年の生活で得られた結論。

 それは──人である。

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 何よりもまず、いろいろと苦労を重ね、家族の大切さがわかった。

 のみならず、周囲に暮らす人々。さまざまな人たちとの関わり。

 それこそがこの土地における宝物だった。

 人の優しさに、新旧住民の隔たりはない。無愛想でもぶっきらぼうでも、他人への思いやりを持っていさえすればいいのだ。最初は猜疑心や反発があっても、根気よく付き合っていくうちに、相手の良さが少しずつ見えてくる。

 むろんその逆もあるにはあるが、だったら思い切って距離を置けばいい。

頼り、頼られるのが、田舎暮らしの価値

 田舎暮らしは器用でなければならないと書いた。

 その器用さは、人それぞれで違う。

 得手不得手があり、いろいろな得意分野があるのだ。だからこそ、お互いに助け合いが必要となる。ないもの、できないことを、互いが補完し合う。

 たとえば私は車というものに関する知識がほとんど皆無だ。たいていの故障や不調は修理工場にまかせている。ボンネットを開けても、何が何やらわからない。自分でやれるのはタイヤ交換や空気圧の調整ぐらい。

 車で走行中、ふいにトラブルに見舞われたとき、やはり自分で何とかしようと努力はする。どうしてもダメな場合、近くに住んでいる友人に連絡したものだ。

 Wさんは、カー雑誌に連載を持っていたライターだが、レストアのプロフェッショナルでもあった。当然、たいていの車のトラブルの対処法はご存じだし、ツールも所有されている。

 パウダースノーの雪だまりに軽トラがはまり込んで、どうにも脱出ができなかったとき、彼のデフロック(編集部注:悪路を走行する際の走破性などを向上する機構)付きの軽トラがパワフルに活躍してくれたこともある。

 逆に私自身が他人を助けることも多い。

 近所の人に頼まれ、屋根に登って、テレビアンテナの調整をしたり、豪雪で車を出せない隣家のために四駆車で買い出しにいったり。

 密猟のくくり罠にキツネがかかっていると携帯電話に連絡が入り、強力なワイヤーカッター持参で駆けつけ、連絡してきた当人とふたりして、気の毒なキツネくんを逃がしてやったのは何年前だったか──。

 2014年の大雪のとき、夫婦連れで暮らしていた山奥の別荘で、夫が持病の発作を起こして倒れた。ところが救急車を呼ぼうにも、雪で入っていけない。

 報せを受けて地元の新旧住民が力を合わせ、除雪機やパワーショベルで雪かきをして、倒れた本人を病院まで搬送できた。

©iStock.com

 それも人同士のつながりがあってのことだ。

 そんなふうに頼り、頼られる。それが田舎暮らしの価値だといえる。

【前編を読む】自然豊かな地方に移住して20年以上! ログハウス住まいの男性が語る「スローライフ」が“まやかし”である理由

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樋口 明雄

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