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自然豊かな地方に移住して20年以上! ログハウス住まいの男性が語る「スローライフ」が“まやかし”である理由

『田舎暮らし毒本』より #1

2021/10/12

 田舎でのんびり暮らす。定年退職のあとは地方でスローライフ。そんな憧れを抱く人は数多い。しかし、地方に移住して20年以上の小説家、樋口明雄氏の周辺にはスローライフを謳歌している家はほとんどないという。それでは、田舎暮らしの“実態”とはどのようなものなのだろう。

 ここでは同氏の著書『田舎暮らし毒本』(光文社新書)の一部を抜粋。地方で暮らすうえでのノウハウ、そしてダークサイドについて紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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家の話

 ログハウスのオーナーになりたいと思っていた。

 昔から、その手の雑誌を読んだり、情報を集めたりしていた。

 ツーバイフォーや在来軸組工法の建築物と違い、重厚な丸太を組んで作られた家は、やはり独特の存在感がある。何よりもかっこいい。

 ログハウスは地震に強い。布基礎(編集部注:一般的な工法である「べた基礎」と比べて地面の奥深くまで鉄筋コンクリートを入れる工法。地面に逆T字型にコンクリートを打ち込む)とログは頑丈なアンカーボルトで結合され、組み上げられたログ同士は鋼鉄のボルトやダボと呼ばれる木栓で緊結されている。さらに丸太組工法の特徴である四角のノッチ──すなわち左右の指同士を組むようにログが交互に連結されているため、縦揺れにも横揺れにもビクともしない。

©iStock.com

 阪神・淡路大震災や新潟県中越地震、そして東日本大震災においても、ログハウスにかぎっては倒壊事例がないという。津波の直撃を受けながらも、そのまま建ち残っていたログハウスもあったほどだ。

 さらに意外なことに火災に強い。

 丸太を組んだ家だから火が点きやすいというイメージがある(おかげでいまだに建築基準法によるいくつかの規制に引っかかっている)が、実のところ、ログは厚みがある木材ゆえに表面が燃えても炭化膜ができて空気を遮断し、火災の熱が芯まで届きにくい。すなわち表面が焼け焦げても、中身は無事ということになる。

 何よりもログハウスは暖かい。

 丸太の壁で囲まれた空間は外気の冷えを遮断し、屋内の温度を保つのである。また木という素材は、ある程度の湿度調節ができるという特徴もある。

 都内にあったいくつかのログハウスメーカーを訪問した。

「今ならこういうことでお得ですよ」と、各社からキャンペーンを持ち出されたりしたが、こちらの希望や好みもあって、なかなか折り合いがつかない。

 最終的にSという会社に絞ったのは、ユニークな社長の人柄ゆえだったかもしれない。

 いろんな設計のキットモデルがあったが、予算に合って、しかも住みやすそうなタイプを選び、自分が購入した土地(東向きの緩傾斜地)などに合わせてあちこちの設計を変えてもらうことにする。