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自然豊かな地方に移住して20年以上! ログハウス住まいの男性が語る「スローライフ」が“まやかし”である理由

『田舎暮らし毒本』より #1

2021/10/12
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 材はカナダ産のサザンイエローパイン。はっきり浮き出した木目が特徴だ。ひと頃流行ったウエスタン・レッドシダーはたしかにかっこいいが、色が濃いため室内が暗くなるし、やっぱり高価だからやめた。材を貼り合わせたラミネートログという選択肢もあったが、接着剤など自然にないものを使っているということで断った。

 ログハウスにはハンドカットとマシンカットの二種類がある。

 前者は文字通りログビルダーが丸太のピーリング(皮剥)から始めて、徹頭徹尾、手作業で家を建てていく。材の不均一や歪みなどが、むしろその家の独自の味わいとなって美しく仕上げられる。まさに丸太小屋のイメージがこれだ。

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 一方で後者はログ材を機械で切り出す。すべてのログ材を機械で生産するために安価になるが、あまりに均一すぎて特徴的でないという欠点になる。

 ログの断面は丸、四角、D型などがある。丸形だと内側の壁の凹凸があって家具などを置きにくい。四角はなんだか味気ない。

 そんなわけで、外からは丸く見え、内側はフラットなD型ログに決めた。

 それらのキット材はカナダが原産で、アメリカのカンザス州にあるログメーカー本社に運ばれて一度、仮に組み立てられてから、また分解され、船に積まれて日本に輸送されてくるそうだ。

最初のトラブル

 同じ市内に、雑誌〈BE‐PAL〉などで有名なシェルパ斉藤さんというアウトドアライターが住んでいる。のちにあることがきっかけで彼とは知り合いとなったが、私に先立つこと4年前に、斉藤さんは仲間たちとともにログハウスを建築した。そのときのことを記録し、彼が執筆したムック本を何度も読み返した。

 セルフビルド、すなわち基礎だけを職人に打ってもらい、ログ材などを買って個人で家を作る。当然、ログビルダーに建ててもらうよりも安価となるし、何よりも自分が暮らす家を自分で作るということにロマンを感じていた。それだけ愛着も湧くだろう。

 ところが当時は多忙すぎて、執筆仕事に追われる日々だった。

 98年の4月から、私はすでに都内を離れて八ヶ岳南麓に仮住まいをしていた。そこから足繁く現場に通っては時間をかけ、コツコツ作り上げるということもできただろうが、老母の家の売却が決まっていて、一刻も早く移住を実行しなければならなかった。

 そのため、ログハウスメーカーにログビルダーを紹介してもらい、建築をお願いした。

 やがて老母も仮住まいのほうへ引っ越してきた。のちに結婚する女性は都内にいたが、ちょくちょくこちらに通ってきていたし、ようやく仮の田舎暮らしがスタートした。

 今にして思えば、その頃がいちばんのんびりしていたに違いない。

 地鎮祭を行い、基礎工事が始まった。

 それからまもなく、最初のトラブルが起こった。

 アメリカ大陸を襲ったハリケーンのため、ログのキット材を運ぶ船が欠航し、日本への輸送が2週間遅延。さらにもろもろの影響で、その年の10月に竣工と引き渡しとなるはずの予定が、なんと翌年になってしまうという。