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同級生から「死ね」「太っている」…中1自殺未遂も、葛飾区は「“いじめ”ではなく“けんか”」

同級生から「死ね」「太っている」…中1自殺未遂も、葛飾区は「“いじめ”ではなく“けんか”」

葛飾区いじめ虚偽報告訴訟、10月1日に判決

2021/09/30

 2011年5月、東京都葛飾区内の中学校で生徒間に起きた「いじめ」の結果、被害を受けた井上ツバサさん(当時1年生、仮名)は「心的外傷後ストレス障害」などと診断され、その後自殺未遂をした。

「『いじめではない』は虚偽報告」として訴訟

 この対応をめぐって、学校や葛飾区教育委員会、東京都教育委員会との間での連絡の際に、「いじめではない」旨の連絡がされていた。そのことが虚偽報告であるとして、ツバサさんの父親が、東京都と葛飾区を相手に総額600万円の損害賠償を求めている。いじめに関する学校側の対応の問題を主とした訴訟はあるものの、虚偽報告を問題とした訴訟は珍しい。判決は東京地裁で10月1日に言い渡される。

ツバサさんの父親 ©️渋井哲也

 東京都教育委員会は2013年4月から、「公益通報弁護士窓口」を設置している。児童・生徒、その保護者、都教委事務局職員、都立学校職員らが、法令違反など不適正な行為の事実を認めたとき、外部の弁護士を通して通報できる。18年度は29件(うち是正措置を行う必要があるものは16件)、19年度は30件(同7件)、20年度は48件(同5件)受理している。父親は、制度に基づいて、区教委の対応を通報した。その「公益通報弁護士窓口」の調査に対して、区教委が都教委に虚偽報告したかどうかが争点の一つだ。

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いじめ防止対策推進法以前は「いじめの定義では、けんかは除外」

 訴状や準備書面などによると、ツバサさんは2011年4月、中学校入学後、バスケットボール部に所属した。学校から帰宅した時に、母親が、ツバサさんの腕に大きなアザができているのを見つけた。そのため、「数日前からAから暴力などのいじめを受けている」と担任に伝えた。このとき、腕のアザを確認したのは担任以外にいない。翌日もAから暴行を受ける。

 区側によると、担任は、つねられたような跡を確認した。いじめの加害を疑われているAを呼び、事実確認をした。すると、ツバサさんとの遊びの中でつねりはあった。お互いにやり合い、別の生徒の間でもやりあっていると聞いたという。つまりは、学校としては、いじめを確認できなかった。ただ、跡がつくほどはやりすぎで、指導をした、という。

 ちなみに、区側は、「いじめ」を否定している。ツバサさんがいじめを受けたとする当時は、まだ「いじめ防止対策推進法」が成立していない。それ以前の文科省の「いじめ」の定義は、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」としているが、「けんか」は除外されている。

 現在の文科省の「いじめの防止等のための基本的な方針」では「けんかやふざけ合いであっても,見えない所で被害が発生している場合もあるため、背景にある事情の調査を行い、児童生徒の感じる被害性に着目し、いじめに該当するか否かを判断するものとする」とされているが、当時の通知では「けんか等は除く」とされていた。つまり、葛飾区は「けんか」であり、「いじめ」ではないと主張している。