2018年1月、名古屋市名東区の中学1年生、齋藤華子さん(当時13歳)が自殺した。市長部局に設置された再調査委員会が今年7月に公表した「再調査報告書」では、これまで学校や教育委員会の調査では認めてこなかった「いじめ」の存在を初めて認定されたことが話題となった。しかし、当初は“家庭の問題”との見方から、いじめは否定されていた。
いったい何があったのか。華子さんが亡くなった当時、名古屋市教委の職員だった高原晋一さん(66)が取材に応じた。
市長から呼ばれ、応援委員会の職員に
高原さんは、華子さん自殺の調査を直接担当はしていないが、当時、名古屋市教委「子ども応援委員会」制度担当部子ども応援室首席指導主事で、アドバイザー的な役割だったという。子ども応援委員会は、2014年4月、河村たかし市長が設置した。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、スクールポリス、スクールセクレタリーからなるもので、子どもの悩み事を専門的に援助する組織だ。
「この組織を作ったときに、河村市長は、姉妹都市のロサンゼルス市に視察に行きました。そのとき、アメリカと日本のスクールカウンセラーの違いを知ったようです。私は、アメリカで約10年、スクールカウンセラーをしており、著作も出していました。そのためか、市長から連絡があったんです。その当時日本にいましたので、子ども応援委員会の職員に呼ばれました」(高原さん)
大人が言葉として『いじめ』と変換しなければいけない
華子さんは17年9月、関西地方の学校から転校した。引っ越しや転校はストレス要因になることが再調査報告書でも指摘され、《転入生に対していじめが発生するリスク要因が潜在的に存在する》と、特別の指導・配慮方針を立てる必要性を指摘する。そのため、転入時には、《学級担任以外にいつでも相談できるよう、スクールカウンセラーや養護教諭を個別に引き合わせることも必要》(再調査報告書より、以下同。P94)としている。
「もしかすると、(華子さんは)自分がされていることが、いじめとは思っていなかったかもしれない。なぜか人間関係がうまくいかないと思っていただけかもしれない。しかし、(子ども同士のトラブルについて)大人が、言葉として『いじめ』と変換する視点がありませんでした。『スクールカウンセラーは何をしているの?』って、私は思います。なぜ何もしなかったのか? 学校から頼まれなかった? カウンセラーはそれではダメです。これでは、転校生のリスクは軽減しません」(同前)