会長が超ワンマン過ぎて、編集長のなり手が見つからず、気づくと私が編集長になるはめになったのである。ダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」状態だった。
神保町の雑居ビルの狭い事務所に通っているうちに、違和感を感じはじめた。
白スーツを「会長」と呼ぶ男たちは、編集者の顔ではないのだ。
享楽的かつ凶悪。
なかでもパンチパーマのミツトシは、会長から「顔だけで懲役10年いっちゃう」とからかわれるほど強面で、歌舞伎町を歩いていても、本職がよけて通るほどだった。
会長は新英出版という表の出版社以外に、そのころ世間の男たちを夢中にさせた修正箇所の薄い裸の写真集、俗に言うビニ本(ビニール本)を大量に製造・販売する北大神田書店グループを率いていたのだ。
ずばり男女の性交まで無修正で掲載
ビニ本とは、裸の写真集を立ち読みできないようにビニールで包装したために、ビニール本と呼ばれた。買い手はビニールで中が見えないことは、過激な写真にちがいないと勝手に思いこみ、爆買いにおよんだ。
新写真週刊誌の創刊準備に追われる私は毎日、会長と接していると、もう一つの事実に気付かされた。
北大神田書店グループは無修正の写真集、世に言う“裏本”の制作・販売まで手を伸ばしていたのだった。
日本には刑法175条が存在し、恥部・陰毛の類いは不特定多数に露出すると刑事罰に問われる。先進資本主義諸国においてもっとも厳しい国なのだ。
だからこそ、秘部や陰毛だけではなく、ずばり男女の性交まで無修正で掲載された裏本は、歌舞伎町、神保町界隈で密かにかつ猛烈に売れた。
最盛期は1冊1万円以上で売れたのだ。飛ぶように。
北大神田書店グループは歌舞伎町で大量の裏本を売りさばき、会長の右腕、パンチパーマのミツトシが仕切っていた。
北大神田書店グループに莫大な利益がもたらされ、雑誌好きの会長は利益の一部を注ぎ込み、まっとうな出版社、新英出版を立ち上げたのだった。