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「顔だけで懲役10年いっちゃう」と…歌舞伎町界隈で“無修正エロ本”を猛烈に売りさばいた「白スーツの男」

『全裸監督 村西とおる伝』#1

2021/10/08
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 前科7犯、借金50億、求刑370年――AV監督・村西とおるの破格の半生を描き、Netflixドラマ化でも話題になったベストセラー『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏、新潮文庫)がついに漫画化。コミック1巻の発売を記念して、原作者・本橋信宏氏による「特別コラム」を公開します。

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 “会長”と呼ばれる男と出会った

 その男は白いスーツで現れた。

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 1982年初秋。

 古本の街、神田神保町の雑居ビル2階の一室で、私は“会長”と呼ばれる人物と出会った。

 上下白のスーツに直毛の髪が長く伸び、まるでムード歌謡グループのバックボーカルのメンバーのようである。

 きわめつけは白のエナメル靴に白のベルト。80年代、遊び人の男たちはたいていこんな格好をしていた。

 白スーツの男は新英出版と称する聞き慣れない新興出版社の会長と称した。

©iStock.com

 フリーの物書き稼業をやりだして3年目の私は、親しくなったライターから白スーツ男を紹介してもらったのだ。

 新しい出版社を立ち上げ、新人タレントの初写真集を刊行するので、週刊誌で取り上げてくれないか、と白スーツは切り出した。

「出版社といえばなんといっても新潮社と集英社。憧れなんでね。僭越ながらうちの社名もふたつからとって、新英出版。ナイスでしょ」

 新英出版の写真集を週刊誌で紹介した私は、会長と名乗る白スーツから覚えめでたくなり、神保町の事務所にたびたび顔を出した。

 当時、新潮社から出ていた「FOCUS」が100万部を突破、200万部を目指す勢いで、会長も「新英出版から『FOCUS』みたいな写真週刊誌出しますよ!」と豪語、私もスタッフとして参加するようにと声をかけられた。

 フリーランスの文筆業をやりながら、半年ほどデスクとして加わるのもいいかもしれない。

 そんな軽い気持ちだったが、甘かった。