「なんでも楽しんじゃったほうがいいでしょう。短い人生なんだから」
ソープ嬢もたくさん乗せた。吉原までの道中、気さくにあれこれ話をしてくれた女の子(*3)も多い。
*3 ある日、吉原まで乗せた女の子に、「運転手さんに娘さんがいたとして、その子が風俗で働いていたら、どう思います?」と聞かれた。「一般的には、親ならふつうの仕事をしてほしいというのが本音でしょう。でも本人が浮ついた考えではなく、しっかりと考えてのことなら尊重します」と差しさわりないように答えた。彼女は「そうですよね…」と思案していた。結局、彼女は親に打ち明けたのだろうか。
20歳そこそこで小柄な、まだ幼さの残った女性だった。
「あのね、お客さんの中に80歳くらいのおじいちゃんがいるの。アレは全然できないんだけど、ずっと私の体をなめたり、触わったりして、それがすごく楽しいんだって。くすぐったくてしょうがないけど、すごくラクだし、毎月来てくれる常連さんだからいいの」
私は相手がいくつであろうと、丁寧なしゃべりだけは心がけていた。タメ口など絶対にNGだった。
「ああ、そんなご高齢の方も来るんですねえ。きっとお客さまのファンなんでしょう」
「あとね、先週、自分のカバンから女性の下者を出して、それを着てくれっていう人もいたわ。とても人前じゃ着れない、マイクロ下着とスケスケ下着。穿いた姿を見たいんだって。もちろん嫌な顔しないで着たわ。指名客は大切だから」
タクシードライバーと同じく、彼女たちもプロの接客業、お客の期待に応えるのが仕事なのである。
「でもさあ、やたら威張っている奴もいるよね。金を払ってんだからって、ああしろこうしろと命令ばっかりしてくる奴。ムカつく。でもプロだから顔には出さないの。帰ってから、二度と来るなバカ、って舌を出してやんの」
まったく同感だった。
ストレス発散なのか、走行中ずっと話している彼女だが、不思議と悲壮感はない。「趣味と実益を兼ねて」という言葉があるが、もしかして彼女もそうなのではないか。そう思った私は、こんなことを言ってしまった。
「でもお客さま、その仕事、楽しんでやっている感じですね」
言ってから、マズかったかなと思った。当然、彼女の仕事はラクなことばかりではないだろう。なんだかさもラクそうですね、と聞こえてしまわなかったかと心配したのだ。「ああ、そう、わかる? そうかもね。性格もあるけど、なんでも楽しんじゃったほうがいいでしょう。短い人生なんだから」
60をすぎた私が言うならわかるが、まだ20歳そこそこの女の子の言葉とは思えなかった。この如来さま、もう人生を悟ってしまわれたのだろうか。
彼女は吉原のお店の前に到着すると、料金を支払い、クルマから降りると、私のほうにお尻を向けてスカートをペロッとめくりあげた。
「サービス!」そう一言だけ言い残すと、お店に消えていった。
こんなに性格が明るくて茶目っ気のある彼女なら、癒やされるためにくる指名客はきっと多いことだろうな。
彼女だけでなく、吉原への行き帰りに乗せた女性たち(*4)の生の声はリアリティーと迫力にあふれ、私はその話を聞くのがとても好きだった。
*4 吉原関連の女性でヘンなお客に当たったことはない。やはり究極のサービス業だからだろうか。