母親の意味不明な言動の数々
母親との同居からしばらくして、お兄さんの退院日が訪れた。退院後の彼は実家に戻り、病院側が作成した計画に則って一人暮らしをする予定だった。斎藤さんが迎えに行く準備をしていると、母親も「一緒に行くわ」という。
そして病院に迎えに行き、退院した彼を車から降ろすため実家に立ち寄ると、なぜか母親もいっしょに降りてしまった。そして結局、斎藤さんの家に戻ることはなかった。さらに翌日には「私の金庫を返して」と電話がかかってきた。金庫には母親の証券や通帳などが保管されており、遺言書作成のために斎藤さんがずっと預かっていた。
母親の突然の言動に戸惑いつつも申し出を受け入れた斎藤さんだったが、後日、母親とお兄さんが親戚などに「娘にだまされて知らないところに連れて行かれて遺言書を書かされた。財産も盗まれた」と電話していたことがわかった。また母親から「よくも年寄りを騙して、虎の子を持っていったね」と斎藤さんを非難する電話もかかってきた。
なんとか誤解を解きたいと、母親に話し合いを持ちかけるも応じようとはしなかった。一方で、母親は銀行や証券会社などに出向き、斎藤さんが整理した財産や証券が兄に移譲されるよう契約内容の更新を繰り返していた。
そして、今年2月。お兄さんから「遺産相続のことで話し合いたい」と言われた斎藤さんは、誤解を解くチャンスだと思い、実家へ向かう。出迎えたお兄さんに「前回はあなたがお金をたくさん使って、お母さんが不安になったから、入院中で悪いと思ったけど、公正証書を作らせてもらった」と伝えると、納得した様子だったという。
兄名義に変更された「3800万円の財産」
「2人で話し合いをした結果、遺言書と今ある資産内容が変わったこともあって、その場で遺言書をシュレッダーにかけることにしました。母と私と兄の3人で改めて話し合い、作り直そうという話になりました。ところが、これが悲劇の始まりでした。兄がいきなり『僕が財産を調べ直して、お母さんの貴重品を管理する』と言い出したのです」
斎藤さんはお兄さんの入院中に公正証書を無断で作ったという負い目があったのと、彼が冷静な様子に見えたため、うっかり提案を承諾してしまった。しかし、そのときすでに彼は軽躁状態。以前のようにバーや風俗店などでお金を散財していたのだ。
その後もお兄さんは認知症のため状況把握できない母親と一緒に金融機関をまわり、母親名義の定期預金や口座からお金を引き出し、自分の名義に変更していた。その総額は3800万円近くに及んだという。