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頭の皮をペロッと剝がされた松橋三郎さん
幸屋渡の松橋三郎さんも上手なマタギの一人だ。松橋さんは65歳のときに、きのこを取りに鍰内沢(からみないさわ)に一人で出かけた。
大きな松の木があって、そこできのこをつんでいると、ホッホッホッとキジが鳴いた。
これは仔連れの母仔グマだった。クマもきのこを食べにきたらしい。松橋さんがきたので母グマは心配して、仔グマを呼んだ。その声だったのだが、松橋さんはきのこ取りに夢中になっていたので、さほど気にとめなかった。
すると、いきなり背後からどさっと母グマにかぶさられた。母グマは大きな掌を松橋さんの頭にひっかけた。その爪で、頭の皮がペロッと剝がれた。気丈な松橋さんは、マタギのたしなみで山入りのときには腰から離さない山刀をさぐった。クマは咬もうとする。首を仰向けにされたらひっくり返されるから、懸命に耐えた。ここで慌ててはお終いだと、腰をさぐっていると刀のつかに手がかかった。そこで山刀を引き抜いて腋の下から背後のクマを突き刺した。これがうまく心臓に入ったので、クマは唸りをあげてとび退き、200メートルばかり走ったあとで死んだ。松橋さんはそれを見とどけて、里に降り、人家のところまできて気を失ったという。
【前編を読む】「さあ、いくべ」「無理するこたぁねえシャ」動物文学作家が同行した“マタギ”の狩猟…野営地で過ごした一晩の出来事
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