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「痛い、苦しい、息ができない」真っ赤な便器、冷や汗、呼吸困難…“ヂアミトール投与殺人”の凄絶さとは《大口病院点滴殺人》

genre : ニュース, 社会

 10月1日に横浜地裁で始まった、横浜市神奈川区の旧大口病院で起きた点滴殺人事件の裁判員裁判。元看護師、久保木愛弓被告(34)は2016年9月、3人の患者の点滴袋に注射器で消毒液「ヂアミトール」を混入させて殺害したなどとして、殺人罪などに問われている。

 興津朝江さん(当時78)と八巻信雄さん(当時88)の場合は、久保木被告自身が病院にいないときに投与される点滴袋にヂアミトールを予め混入させ、西川惣蔵さん(当時88)の場合は別の看護師が勤務を終える前に容態を急変させる必要があり、投与中の点滴に直接ヂアミトールを混入させていた。

旧大口病院の看護師だった久保木愛弓被告が逮捕された神奈川県警本部 ©️共同通信社

 消毒液を投与されたことによる死亡。刺殺や絞殺などと比べ、その死の苦しみは想像しにくい。しかし法廷で明らかになったのは、その凄絶な死の過程だった――。(全2回の2回め/前編を読む

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「自宅に猫が3匹いる」退院間近の患者もターゲットに

 初公判では検察側の冒頭陳述が終わると、興津さんと西川さんの事件についての証拠調べが行われた。そこで2人がいかにして亡くなったか、その詳細が語られた。西川さんは終末期の患者だったため、ベッドの上で苦しみ、死を迎えたという。

久保木愛弓 ©️共同通信社

 しかし整形外科にかかっていた興津さんは意識もはっきりしており、重篤な状態ではなかった。

 検察側によると、興津さんは2016年9月上旬に転倒して右膝と右肘をけがし、同月12日に大口病院の整形外科を受診。主治医の供述調書によると、右膝がひどい状況で挫創に加えて膝全体が腫れ、中心部は化膿して黄色くなっていたという。傷口から何らかの細菌に感染している可能性があるため抗生物質の点滴が必要だと、入院の必要性を訴えたが、興津さんはぐったりしながらも「自宅に猫が3匹いる」などと入院を拒否。しかし白血球の数値が上昇していることなどを示したところ、翌13日から入院することになったという。

「無断外泊されれば自分の責任になる」

 13日、14日と点滴を打った興津さんは順調に回復へ向かっていた。14日には「猫のことや家のことでやることがある」と外出を求めてきたため、短時間ならばと許可も下りた。

 しかし15日。興津さんは勝手に外出しようとして、看護師が連れ戻すという出来事があった。この看護師が、日勤の久保木被告だった。久保木被告はこの後、興津さんに投与予定の点滴袋にヂアミトールを混入した。

 検察は興津さん殺害の動機として、「再び興津さんが無断外出してけがをすれば自分の責任になると考え、次の勤務日である18日よりも前に興津さんを死亡させようと決意した」と指摘している。