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がん友

 悪口を書かれる一方、温かい言葉をいただくこともあります。2021年6月、治療を続ける僕に歌舞伎俳優の市川海老蔵さんから、励ましのコメントが届きました。「ご回復を心から祈ってます」「妻の代わりにコメントさせていただきました」「転移に負けないでください」

 一つ一つの言葉に、感謝と感動の気持ちでいっぱいになりました。

 海老蔵さんと奥さまの小林麻央さんとは17年に知り合いました。知り合ったというよりも、一方的にこちらが反応しただけなのですが。

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 この頃、僕たち家族は闇の中にいました。僕は「がんになってしまって申し訳ない」と後悔し、妻と子どもたちは「もっと早く異変に気が付いていれば」と自分たちを責めていました。

 そんなとき、妻が麻央さんのブログにこんな言葉を見つけ、教えてくれたのです。「がんになったのは誰のせいでもないよ」。麻央さんもがんに苦しんで、悩んで、この言葉にたどり着いたのでしょう。「誰のせいでもない」。僕たちはこの言葉に救われました。

 感謝の気持ちを僕のブログに記したところ、何と麻央さん本人から反応がありました。そこから、ブログを通じて麻央さんや他のがん患者の方と交流が始まりました。僕の世界や考え方が少しずつ変わっていきました。

 がんについて僕が語ってもいいのだろうか。この頃、自宅のパソコンでブログを更新する自信が持てなくなっていました。でも、麻央さんはありのままをブログでつづっていて、僕はそのブログを読んで救われました。自分もそうなりたい。少しでもがんにかかった人の役に立ちたい。そう思えたのです。

 僕は僕と同じようにがんと闘っている人を勝手に「がん友」と呼んで、交流を続けています。がんになったことで、新たな縁に恵まれました。今、このタイミングで読者の皆さんとつながることができたのも、一つのご縁かもしれません。僕の経験は皆さんのお役に立てていますでしょうか。

シンプルに生きる

 僕はがんになって、多くを望まなくなりました。おいしいご飯を食べて、家族と話ができて、大好きな野球の仕事ができる。そんなこれまで通りの暮らしができれば、それでいい。シンプルに生きたいと思っています。

 シンプルが一番です。思えば、これまでの人生、複雑だったり、ややこしかったものが、よかったためしがありません。例えば、野球のサイン。以前、サインが覚えられなかった話を書きましたが、他にも笑える話があるんです。