昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2人と2頭だけが呼吸をあわせたワルツのように

 それは、ぴたりと呼吸をあわせたワルツのようにも見えた。

 それは、何者たりとも立ち入れない神事のようにも見えた。

 長い歴史の中で生き残ってきた、選良中の選良たるサラブレッドたち。その中でも、同時代を代表する2頭の名馬と、稀代の名手2人による、永遠とも思えるほど長い追い比べ。

 誰よりも、速く。その単純極まりない本能に訴えかける、競馬の魅力。それが凝縮されたような、数十秒間。

 3着のルイボスゴールドを9馬身も千切り捨て、ゴール板までびっしりと続いた2頭の追い比べは、首の上げ下げでわずかにナリタブライアンが前に出ていた。

 2頭のマッチレースはただただ美しく、ただただ雄々しく、それでいて、神々しかった。

 観る者の魂を震わせる、3分4秒9。競馬ファンであることを誇りたくなる時間だった。その日その時間を生きられたことに感謝を捧げたくなる、約3分間の出来事だった。

 1996年3月9日。競馬史に刻まれた、阪神大賞典。

 何年、何十年と、どれだけ時間が流れようとも。

 あの2頭の姿は、あの日あの瞬間を生きた人々の心の中に、まばゆい輝きを放ち続ける。

(執筆・大嵜直人)

【続きを読む】《伝説の名勝負》「武豊はダービーを勝てない」ファンの間で囁かれた“不名誉なジンクス”を覆した“決定的瞬間”

この記事の写真(3枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー
z