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《競馬史に刻まれた名レース》並ぶ、差す、並ぶ、差し返す… いま振り返る“シャドーロールの怪物” の神々しい姿

『競馬伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』より #1

2人と2頭だけが呼吸をあわせたワルツのように

 それは、ぴたりと呼吸をあわせたワルツのようにも見えた。

 それは、何者たりとも立ち入れない神事のようにも見えた。

 長い歴史の中で生き残ってきた、選良中の選良たるサラブレッドたち。その中でも、同時代を代表する2頭の名馬と、稀代の名手2人による、永遠とも思えるほど長い追い比べ。

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 誰よりも、速く。その単純極まりない本能に訴えかける、競馬の魅力。それが凝縮されたような、数十秒間。

 3着のルイボスゴールドを9馬身も千切り捨て、ゴール板までびっしりと続いた2頭の追い比べは、首の上げ下げでわずかにナリタブライアンが前に出ていた。

 2頭のマッチレースはただただ美しく、ただただ雄々しく、それでいて、神々しかった。

 観る者の魂を震わせる、3分4秒9。競馬ファンであることを誇りたくなる時間だった。その日その時間を生きられたことに感謝を捧げたくなる、約3分間の出来事だった。

 1996年3月9日。競馬史に刻まれた、阪神大賞典。

 何年、何十年と、どれだけ時間が流れようとも。

 あの2頭の姿は、あの日あの瞬間を生きた人々の心の中に、まばゆい輝きを放ち続ける。

(執筆・大嵜直人)

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