マヤノトップガンのすぐ後ろから、ナリタブライアン
馬なりのままスティールキャストをゆっくりと交わし、先頭に立つ。その姿は泰然として、現王者の風格と威厳を感じさせた。
マヤノトップガンと田原騎手の予想よりも早い仕掛けにより、レースは瞬時に沸点を超えた。
しかし、そのすぐ後ろから、シャドーロールが揺れる黒鹿毛の馬体が迫る。
1994年の年度代表馬、ナリタブライアン。
深く沈み込むようなフォームから繰り出される比類なき豪脚で、シンボリルドルフ以来10年ぶりの三冠馬に輝き、さらには有馬記念で古馬相手にも圧勝した。しかしその豪脚の代償か、さらなる飛躍が期待された翌1995年の春に、ナリタブライアンは股関節炎を発症してしまう。なんとか同年の秋からターフに復帰したものの、天皇賞・秋、ジャパンCと続けて惨敗し、続く有馬記念では4着と、マヤノトップガンの後塵を拝していた。
あの豪脚は、もう見られないのかという諦めと、もう一度だけでも、あの走りを観たいという期待と。ナリタブライアンが走る度に、ファンの心理はその狭間で揺れた。
今日は大丈夫なのか、ブライアン。
祈りにも似た視線を一身に浴びながら、ナリタブライアンもまた馬なりのまま、マヤノトップガンに並びかけていく。鞍上の武豊騎手の手綱には、まだ余力は十分にありそうだ。
残り600m、2頭の馬体のシルエットがぴたりと重なった。ぐんぐんと、その後ろのノーザンポラリスとの差が、開いていく。内にマヤノトップガン、外にナリタブライアン。並んだまま、直線を向く。もはや、2人と2頭だけの世界だった。
並ぶ、追う、並ぶ、追う。
内か、外か。流星か、シャドーロールか。天才か、名手か。
並ぶ、差す、並ぶ、差し返す。
栗毛か、黒鹿毛か。意地か、誇りか。変幻自在か、豪脚か抜く、抜かせない、抜く、抜き返す。