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「NHKではこんないい加減な方法がまかり通るのか」 再現セットなのに“自宅のような演出”

NHK制作ドキュメンタリーに“禁じ手”の指摘。名古屋闇サイト殺人事件をめぐって

2021/10/12
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いつかB子さんに寄り添った作品を制作してお詫びしたい

 東海テレビでは阿武野氏の指揮の下で齊藤潤一ディレクターがB子さんの裁判の過程を追っていた。2009年に『罪と罰~娘を奪われた母 弟を失った兄 息子を殺された父親~』というドキュメンタリーを放送した。

 しかし、阿武野氏の記述によると、ディレクターだった齊藤氏にとっては「B子さんが望む番組ではなかった」という思いを抱え続けることになったという。「それを『胸のつかえ』と言い、『いつかB子さんに寄り添った作品を制作してお詫びしたい』と考えていた」。これをドキュメンタリー・ドラマ『おかえり ただいま』(2018年12月『Home~闇サイト事件・娘の贈りもの~』として放送。20年9月ロードショー)として結実した。

NHK『事件の涙 Human Crossroads――同じ空を見上げて “闇サイト殺人事件”の10年』(2017年12月27日放送)より

 そんな制作過程の中にいた東海テレビのメンバーが視聴することになったのが、NHKの『事件の涙』だった。「世間に衝撃を与えた事件の陰にある、人々の涙を描き出し、現代社会を映し出す新感覚のドキュメンタリー」(NHKオンデマンドの説明より)として2017年に始まった番組だという。

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 ところが阿武野氏は、〈番組を観ていて、これまでのドキュメンタリーでは感じたことのない気持ちの悪いシーンに遭遇した。それはB子さんの家の中の場面だった〉と著書に記している。

 殺害されたA子さんは、自分たちの家を持つという母親の夢のために、コツコツ貯金し、犯人たちの脅しにも屈せず、キャッシュカードのウソの暗証番号を教えて、家の購入資金を守り抜いた。そうした「B子さんの家の中は、娘の気持ちで溢れていると感じて」いて、スタッフも「家の中の様子が娘のA子さんの不在を表現するのに百の言葉より雄弁であることを痛いほど知っていた」が、B子さんは家の中の撮影を固辞したという。

なぜ「部屋の中の映像」を撮影できたのか?

 東海テレビがずっとできなかったB子さんの「家の中の撮影」がNHKの『事件の涙』では撮影できていた。

 阿武野氏は書いている。

〈なぜB子さんの家の中の撮影ができたのか。信頼関係の深度の違いだということなら、それはそれで納得だった。しかし、そうではなかった〉

 番組に映し出されていたのは、B子さんの家の映像ではなかったのだ。

〈部屋は、ウィークリーマンションのようなところを借り、観葉植物やカレンダーはB子さんのものを運び込んで撮影したというのだ〉と阿武野氏は断定的に書いている。