「情報公開制度」を利用し、昼は普通のサラリーマンでありながら、政権の数々の疑惑をつかみ、報道機関にスクープを提供してきた陰の立役者が、“開示請求の鬼”の異名を持つWADAさんだ。WADAさんは2020年9月、日本全国に散らばる“同志”と集い、「開示請求クラスタ」という組織を立ち上げた。メンバーはSNS上で出会い、「会ったこともなければ、本名すら知らない」(WADAさん)という20人弱の精鋭で構成されている。
情報公開制度とは、民主主義の根幹である国民の「知る権利」を保障し、誰もが自由に国や自治体が持つ情報にアクセスできるべきという考えから、2001年に情報公開法が施行されて生まれた制度だ。インターネットでも簡単にダウンロードできる「開示請求書」に記入し、手数料を払って送れば、手続きは完了。原則30日以内に開示の可否が決定され、コピー代やスキャン代を払えば、資料を受け取れる。
スウェーデンでは200年の歴史を持ち、アメリカでは1966年に情報自由法が制定されるなど、今や国際社会では“当たり前”の制度となっている。一方、日本では2017年に森友学園問題で財務省の“決裁文書改ざん”が明るみになったほか、2018年に安倍晋三元首相の「桜を見る会」の招待者名簿の破棄が明るみになるなど、欠陥を指摘する声が多い。
開示請求のプロたちはこれまで、どのようにスクープをつかんできたのか。
謎に包まれた、“最強の市民たち”の正体とは――? 代表のWADAさんに話を聞いた。
◆◆◆
大阪府知事“イソジン会見”内幕や「桜を見る会」問題のスクープも
――まずは、これまで飛ばしたスクープについて教えてください。
WADA 私が見つけた最近のわかりやすいネタは、松井一郎大阪市長の公用車での“スパ通い”ですね。この問題は、Twitterで「自分が通うスパに松井市長が来ている」という書き込みを発見して、「じゃあ公用車で来ているかもしれないな」と考え、請求したらビンゴだったわけです。これは「日刊ゲンダイ」さんで記事化されました。
どこにでも市民の目はありますが、SNSの発達もあり、相手が全くの他人でもその人の情報に辿り着くことができます。私は報道機関の人間ではありませんが、一般人であっても「権力の監視」は普通にできると思います。
他にも吉村洋文大阪府知事の“イソジン会見”の内幕や「桜を見る会」の問題などで、私やメンバーが開示した資料を報道機関に持ち込み、記事化されたネタは多々あります。
また警察庁への開示請求をもとに、報道各社に提供していたコロナウイルスによる自宅死者数が9月から厚労省の資料でも使われるようになりました。ある意味、行政を動かしたともいえますね。