「頑張れば成長できる」の嘘
今野 利害対立が避けられない場面でも、何か落としどころがあるという想定に日本人はまず立つじゃないですか。ブラック企業でも「頑張れば自分も成長して適応できる」みたいに。
石田 ウィン・ウィンは経済成長が担保されてこそ成立する話で、今の日本ではもう無理だね。
今野 日本人が会社以外のアイデンティティを再構築するようになったら、そこには絶対に利害が入り込むはずなんです。俺は他にやりたいことがあるから、会社ではここまでしかやらないよ、というような。
石田 うん、その考え方は大切だと思う。一昨年の統計ですけど、ドル建ての年間給与で日本はスペインに負けてるんですよ。基本的にスペイン人って残業しないし、昼休み2時間で、バカンスだって取ってのんびり働いている。彼らよりも稼げない切なさね。日本はもう給料は上がらないと思うから、働き方を緩くして「夏休みが3週間取れるならこの給料でも文句言わないよ」という国にしていくしかないんじゃないかな。
今野 いやあ、同感ですね。
石田 賃金が上がる見込みがない以上、働き方を良い方に変えていくしかないと思う。『週刊文春』読者には、ブラックバイトで働く子の親や祖父母の世代が多いと思うんですけど、今の若い子たちの働き方が、もう想像もつかないほど劣化しているということは覚えておいてほしいですね。
今野 親が運命を決めちゃう側面はありますよ。親が「あんた、そんな文句言ってないでしっかりやりなさい」と言ってしまうと、学校に行けなくなって退学するまでバイトをしちゃう。逆に「テストの日までどうしてバイトしてるの」って言われた子はそこで立ち止まって考えて抜け出せるケースがある。親がどれだけ今の子の働き方にリアリティを感じるかが運命のわかれ道になります。
石田 そのためには、普段から親子の会話がないと厳しいですよね。ひどいアルバイトや会社で働いている子って、それが自分の恥だと思って家族に隠しちゃうところがあるから。
今野 読者の方はたかがバイトと思うかもしれませんが、たとえばブラックバイトで病気になったり、大学を中退したりすると、親が面倒をみないといけない可能性だってあります。ブラック企業もそうですが、親が子供に「きちんと労働の記録をとっておけよ、過去2年分だったら請求できるんだから」と教え、働きぶりを注視することで親御さんの家計も大きく変わってくるわけです。
石田 親のとらえ方で、モーレツな差が付いちゃうわけか。これは絶対に覚えておいた方がいいことだね。