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今野 実際に損害賠償を請求されて払った親御さんも結構いるんです。名前のある企業と揉めると、我が子に悪いことがあるかもしれないと。

いしだいら/1960年生まれ。98年『池袋ウエストゲートパーク』でデビュー。『4TEEN フォーティーン』で直木賞受賞。『北斗 ある殺人者の回心』で中央公論文芸賞受賞。新著に『小説家と過ごす日曜日』など。

石田 子供の将来に傷がつくというのが人質になってるんですよ。しかも今の学生には、「世の中は悪くて厳しいところだ」という思い込みが出来あがってるから、「こういう働き方が普通なんだ」と、過酷な環境に納得しちゃうのかもしれない。ほんと昔に比べて素直で真面目な子が多いから。

今野 そうなんです。でもブラックバイトでの残業代未払い、いわゆる労働基準法違反の部分に関しては請求できるし、取れることも多い。一度それを経験すると、若者も価値観の転換を引き起こすみたいで……。

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石田 価値観の転換?

今野 額にしたら2万円くらいの大した残業代でなくても、「あっ、違法な分は取れるんですね。面白い」という感覚になるみたいです。「今度友達にも勧めてみます」とか。

石田 なるほど。行動してみることが大事なんだね。未払い分を請求するには具体的にどう動けばいいんですか?

今野 色んな方法がありますが、個人でやるんだったら、まずはバイト先の企業に内容証明を送ることですね。払わないなら労基署に行きますよ、と。これで大体は払ってくれます。ただ、そのためには必ず何時から何時まで働いたという勤務記録を作っておかないといけない。これはメモでもオッケーです。これからアルバイトされる方は、働きながらきちんと証拠を取るようにしたほうがいいです。

石田 内容証明を送ってもダメな場合はどうしたら?

今野 実際に労基署に申告することです。それでも払わない企業には、私も関わっているアルバイトの労働組合があるので、そこに加入して団体交渉をやる。

石田 へぇー。最近弁護士業界で流行りの、借金過払い金回収みたいなことができるわけですね。

こんのはるき/1983年生まれ。NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍。著書に『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』など。

今野 そうです。実際に弁護士業界も、残業代不払い請求は新たなビジネスチャンスだとばかりに、熱心に取り組み始めていますから。ただし、悪徳弁護士も多いので注意が必要ですが。

石田 バイトに限らず、今のブラック企業の典型的なやり口を教えてください。

今野 まずは求人票が嘘ですね。たとえば給料が20万円と書かれていても、その中に80時間分の残業代が含まれているとか。

石田 それは法律上オッケーなんですか?

今野 もちろん違法だし、罰則もあるんですが、厚労省に問い合わせたところ、今まで一度も取り締まったケースがないという答えだったんです。

石田 それはひどい。

今野 入社後に渡される契約書に残業代が含まれていると書いてあって、サインが求められます。でも、新卒の学生だと、その会社を辞めてもすぐには他社に転職できないじゃないですか。その弱みに付け込んで合意を成立させるんです。

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