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「それくらい我慢できるでしょ」シャープペンの音、給食のにおいに悩まされた少年が14歳で「感覚過敏研究所」をつくるまで

「それくらい我慢できるでしょ」シャープペンの音、給食のにおいに悩まされた少年が14歳で「感覚過敏研究所」をつくるまで

加藤路瑛さんインタビュー#1

2021/10/15
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 研究所の活動には、啓蒙活動、商品・サービスの企画制作と販売、感覚過敏の研究という3つの柱がある。加藤さんが最初に手をつけたのは、感覚過敏を認知してもらう試みだった。

「感覚過敏は他の人からは見えない辛さなので、可視化するために五感を表すキャラクターを作ってバッジにしました。視覚過敏が猫で、聴覚過敏がうさぎ、味覚過敏がコアラ、嗅覚過敏が象、触覚過敏はハリネズミがキャラクターです。ハリネズミは触られるのが苦手で丸まって針を向けるし、コアラは敏感な味覚を生かして毒が弱いユーカリを食べている。猫やうさぎや象は目、耳、鼻というパーツのイメージです」

感覚過敏を示すためのバッジ Ⓒ積紫乃

 2020年1月にスタートした感覚過敏研究所がスタートして間もなく、新型コロナウイルスが世界中を襲った。マスクの着用が爆発的に広がると同時に、マスクをしていない人が冷たい目で見られるようになっていった。しかし、触覚過敏の人にとってマスクの着用はすさまじい苦痛だ。

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「触覚過敏・嗅覚過敏でマスク着用が困難な人のために、『感覚過敏でマスクがつけられません』という意志表示をするシールやマークを作り、飛沫対策商品として“せんすマスク”を作りました」

 “せんすマスク”とは、マスクを着けられないかわりとして考案したもので、ここぞというときにせんすを広げて飛沫防止に用いる。

 “せんすマスク”は注目を集め、加藤さんはメディアの取材を受けるたびに、マスク着用を難しくする「感覚過敏」という症状についての説明を続けた。

飛沫を飛ばさないために、マスクのかわりに扇子 Ⓒ積紫乃

「作りたいものはめちゃめちゃありますね」

「僕が活動する前よりは、感覚過敏について知られるようになってきた手応えは思います。でもまだまだ。知ってたとしても、過敏さはどれほどなのか外からは分からないですし、もっと知ってもらうのがまずは大事です。作りたいものはめちゃめちゃありますね。アパレルブランドもスタートさせたいと思っています」

 加藤さんが始めようとしているアパレルブランドの1つとして開発したパーカーは、肌に当たる部分に縫い目がなく、首元にタグもつけていない。素材にもこだわっている。もちろん触覚が過敏な人のためだ。パーカーにとどまらず、さまざまなアパレルの開発・制作のためにクラウドファンディングで資金を集めている。

感覚過敏研究所が開発したパーカー Ⓒ積紫乃

「肌着、下着、Tシャツ、ジャケット、ボトム、靴下など商品を増やしていきたいですね。感覚過敏でも食べられる栄養食や、視覚過敏の人のための調光レンズで取り組んでいきたいです。アイデアは無限に出てきます」

 根底にあるのは「今をあきらめなくていい社会を作る」という気持ちだという。その気持は12歳で起業したときから変わっていない。

「それくらい我慢できるでしょ」シャープペンの音、給食のにおいに悩まされた少年が14歳で「感覚過敏研究所」をつくるまで

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