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 ベトナム人の娘が事故で亡くなったケースでも、遺体を引き取るために来日してきた家族が、「時間があるならディズニーランドに行きたい」と警察官に言ったという。「滞在している間にどこか行きたいところはあるか」と来日した家族に尋ねると、そのほとんどがディズニーランドの名前を上げるらしい。タダで来日できる機会は彼らにとって貴重なのだ。

 むろん、このようなトラブルに発展するケースばかりではないが、遺体への感情や文化の違いなどから、警察関係者を悩ませる事態が増えてきたのも事実だ。

死体は放置、妻は遺体と面会することなく保険金を要求した

 中国へ遺体を送還するには、上海までの飛行機便がある成田まで遺体を運ばなくてはならない。いつまでも遺体を港近くの病院の霊安室に安置しておくわけにもいかず、いつ迎えにくるかわからない外国人の遺体を保管する場所もない。結局、遺体は家族が来日するまで警視庁が預かることになった。彼は某署の保冷室で眠ることになったのだ。

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 妻は火葬より遺体のまま帰国させることを望み、「遺体に防腐処理はしないでくれ」と依頼してきた。すぐに来日するつもりだったのだろうか。警察はその意向に沿い、ドライアイスを使って遺体を保管し続けた。しかし、ドライアイスで保管するには限界がある。

 4日、5日と経てば遺体の状態はどんどん悪くなっていく。「送還しなければならない遺体を、冷凍マグロのようにコチコチに凍らせてしまうわけにはいかない。凍らせた遺体は解凍と同時に一気に腐敗が進んでしまう」と警察関係者は話す。1週間後には「防腐処理をしないと遺体はもたない。処理をしないなら火葬になる」と聞かされ、妻はようやく防腐処理を承諾した。

 そこから10日が経過したが、結局、家族は誰ひとり、妻さえ来日しないことが決まった。「冷たい保冷庫で、何日も家族が来るのを待っている故人が、なんともかわいそうだった」と警察関係者は言うが、彼はようやく機上の人となった。

 もうひとつ警察の保冷室に、10日以上眠り続けた遺体がある。彼も30代の中国人男性だ。仕事のため赴任していた東京で、交通事故にあってしまった。2010年ごろ、ちょうど中国企業の日本進出が年々増加していた時期だった。男性は即死だったが、遺体の顔に損傷はなく、遺族に会わせることができるほどきれいだったという。交通事故のため遺体は検視された後、警察署に安置された。

 警察から連絡を受けた妻は、電話口で叫び声を上げ、「どうしましょう」と言うばかり。こんな電話を突然受けたら、誰もがパニックになって当然と警察官らは思ったという。だがその意味は違っていた。

 数時間後、妻は数人の弁護士を引き連れて警察に乗り込み、気が狂ったように騒ぎ立てた。加害者とその保険会社に対し補償金について直談判するためだった。事故原因は、中国人男性が横断歩道以外を強引に横断したことによるものであり、歩行者にも過失が発生する。もしこれが中国国内で起きた事故なら、歩行者側が一方的に悪いと言われかねない状況だったらしい。