『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』の著者の和田靜香さんはフリーライター。主に音楽や相撲を中心に執筆し、不安定ながらも何とかやってきた。バブルは92年頃に崩壊したものの、CDのミリオンセラーが続出するなど、お金を払って文化を楽しむ余裕が社会にあったからだ。だが、2008年頃になると、仕事が極端に減っていった。「自分自身の勉強不足のせいだと思っている。新しい流れに、ついていけなくなった」と和田さんはいう。40代半ば頃から、コンビニやパン屋、スーパーなどでバイトをするように。時給はいつも最低賃金。不安のなかで暮らす日々、どうしたらいいのか、分からなかった。
「そんなところに、コロナがおそってきました。あの頃は、コロナにかかったらどうなるのか、すぐ死んじゃうのか、とか、誰も何もわからなかったですよね」
昨春、感染におびえ、バイト先を長めに休んだら、解雇された。その後、ドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観て、立憲民主党の衆議院議員・小川淳也氏の誠実さに感動した和田さんは、昨年7月、小川氏のインタビュー記事をウェブサイトに書いた。すると、沢山の人から「面白い」という反響があり、妻・明子さんにもインタビューすることに。小川氏のYouTube動画も観て、「一緒に本を作りたい」と思い始める。
「小川さんの言葉をもっと知りたい、という気持ちでした。生きるためにどうしても希望となる言葉や実感が必要だったんです」
小川氏にOKをもらった和田さんは、永田町に乗り込んだ。
「金銭的なことや住宅の不安があって、政治や選挙にも関心を持っていても、それらがどう繋がるのか、どう考えたらいいのか、はじめは何もわからない状態でした。最初、小川さんは頭を抱えていました(笑)」
だが小川氏は、そんな和田さんを見下さなかった。
「学歴も地位も高い男性が、無知な女性に教えを授ける、というようなマウンティングの図式にはならなかった。それは、社会をよくしたい、という点で、二人が同じ方向を向いていたからではないか、と小川さんは言っていました」
次第に和田さんは勉強に夢中になった。本を読み、ネットで調べ、次回の対話の質問を考える。時には夜中の3時まで没頭した。
「この年になって、学ぶことは楽しい、と気づきました。病気もそうですが、抱えている不安の原因が分かると楽になるし、エンパワメントもされます」
人口問題や税金、中高年の就職事情、環境問題など、日本の現状を説明しながら、やりとりが展開されていく。合間には、心情を綴ったコラムも挟まれている。
「小川さんの持論が100パーセント正しいわけではないです。たとえば原発問題に関しては、はっきりと意見がすれ違っています。でも、意見が合わなくても尊重し合う。それが対話だと、身をもって実感しました」
和田さんはベーシックインカム(最低限の所得を保障する制度)の導入を望んでいる。
「仕事はAIに奪われていく上に、日本は人口減少の段階に入っている。これまでの税金や年金制度では一人一人の生活が持たないのは確実で、生活の最低保障が必要です。ぼんやりしていては生きていけない時代に、以前の私のように何をどう考えたらいいのかわからない、でも不安を感じている人が、考え方を身につける最初の一歩の本になればいいなと思います」
わだしずか/1965年千葉県生まれ。相撲・音楽ライター。著書に『世界のおすもうさん』『コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著)、『東京ロック・バー物語』などがある。