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みうらじゅんさん「もう袋文字だけでもクラクラ」

「和田誠さんに装丁をお頼みしようと思っているのですが」と、本誌連載の『人生エロエロ』が初単行本になる際、そんな畏れ多いことを編集者に言われて困った。

「そりゃ、やって頂けるのなら夢のようですが……」と、その場は返したが、選りに選ってそんなタイトルのカバーでしょ、絶対、これは無理に違いないと思ってた。

「みうらさんからもプッシュよろしくお願いしますね」

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 後日、編集者の計らいで和田さんとお酒を飲む機会を得た。

みうらじゅんさん ©文藝春秋

 たまたま和田さんの展覧会と僕のイベントが仙台であって、その夜、とあるバーで合流したのだった。

 僕は夢中で和田さんの御本『倫敦巴里』や『お楽しみはこれからだ』などについて一方的に喋ったのだと思うけど、途中で編集者に例の件を催促され、酒の力もあって切り出した。

 すると和田さんは笑いながら「いいんじゃないの」と、まるで他人事のようにおっしゃる。「エロエロですけど、本当に大丈夫ですか⁉」と、僕が上気して聞くと「君は大丈夫なんだろ?」と。「は、はい! ありがとうございます‼」

 それから数カ月経ったある日、編集者が和田さんのカバーイラストと装丁を見せてくれた。

マネのマネというシャレたジョーク

 今までどんだけ和田タッチをマネてきたことか。いや、どんだけマネたつもりでもその差は歴然だった。しかも、カバー裏には僕がよく描くカエルのイラスト。しばらく自分でも気付かなかったくらいソックリだった。

『人生エロエロ』の単行本 ©文藝春秋

 それはきっと、和田さんのマネのマネというシャレたジョークだったに違いない。あぁ、そんなカッコイイ大人にどうしたら成れるのか?

 常々、思ってきたが、今回、その糸口になるであろう単行本が出た。和田さんの17歳から19歳の日記帳である。先ず、表紙に書かれた当時の『だいありぃ』という袋文字に釘付け。

“袋文字とは文字修飾の一種で、輪郭線だけがある文字”なのだが、僕はそれをずっと和田文字と呼んでいる。もう、この頃から完成型ではないか!

 和田さんがその時代に『お楽しみはこれからだ』の礎となる映画を存分に観られてたことや、観察眼にブレが無いことなど、リアルな手書き文字で知ることが出来、僕は大きなため息をつきながら天才のマネは無謀だったことに改めて気付かされた。

 やっぱスゴ過ぎ!

INFORMATION

◆11月3日からはギャラリー「TOBICHI」(東京千代田区)にて10代の頃の日記を題材とした「だいありぃ 和田誠の日記展」も開催。

◆和田誠さんの17~19歳の日記を手書きのまま書籍にまとめた『だいありぃ』が現在発売中。

◆和田誠さんの仕事の全貌に迫る「和田誠展」が、東京オペラシティアートギャラリー(東京新宿区)にて開催中。会期は12月19日まで。

◆和田誠さんがマザーグースを訳した詩集に、作曲家・櫻井順さんが曲をつけた、120組による全120曲が収録された名盤「オフ・オフ・マザー・グース」が今秋復刻。展覧会ミュージアムショップのほか、全国のCDショップやオンラインで販売中。

 

だいありぃ 和田誠の日記1953~1956

和田 誠

文藝春秋

2021年10月5日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。